2026年05月29日(金)

コラム・エッセイ

No.74 祖母の命日も忘れて…。

美人薄命 走れ!おばさん 中村光子

 前号で、夫の母上と私の生母が、いつしか重なりあった、と書いた。その、後日談がしたい。

 ある日、仏壇の掃除をしていて、夫の母上の写真が出てきた。前号から、ずーと後の話だ。引き出しの奥にしまい込み、そのまま月日は流れていたのだ。

 亡夫の妹は、電車で30分ばかり離れた町に住んでいる。今年86歳だと思うが、とても元気だ。母上に似て美人だ。私のことを“お姉さん〟と呼び親しく接してもらっている。

 世間知らずの私は、嫁して来た頃、彼女を“お姉さん〟と呼んだら、夫が「彼女は僕の妹で姉ではないよ」と、注意され驚いた。

 仏壇の引き出しから出て来た母上の写真は我が家にあるより、妹の所の方がよかろうと差し上げたら、とても喜ばれた。

 先日、祖母の写真をみて、亡くなった当日のことは鮮明に覚えているのに、亡くなった月日を忘れているのにがく然とした。関西に住む弟に問うと、昭和32年6月22日であった。

 私はその日、後輩のバスケットの練習を見に、徳山の学校へ、弟は映画を見に行っていた。

 実は祖母の容態は悪く、父や義母、親戚一同は集まっていたが、父は私と弟には言い出せなかったのであろう。

 私はバスケットの練習を終え、富田駅に着いたら、義母に出会った。

 「おばあちゃんが亡くなったので喪服を取りに帰るところ、早く帰ってあげて」と言う。私は言葉も出ず、走りに走った。おんおん泣きながら、走って走って、おんおん泣いて、泣いても泣き足らず、走って走って家にたどりついた。

 祖母のおだやかな顔を見ると、また涙があふれ、裏庭のビワの木の下で、おんおん泣いた。父がやって来て言った。「いつまでも、泣くんじゃない」

 私は父を睨みかえしたのを今も覚えている。

 いつもの癖で、話があとさきになって、申しわけありません。

 父が再婚したのは、我々のためだったのだと思うが、祖父母は病弱な母を見かねて、私を引き取ったが、弟まで手がまわらなかった。弟は義母に懐かず、父の姉の所へあずけられた。

 弟が4歳になった時、祖父母と私の住む、富田大神に帰ってきた。

 当時は田舎の1本道で寂しかった。今で言うと、新南陽高校を過ぎたあたりで、高台にある祖父母の家が見える。弟は言ったそうだ。

 「ココカラハヒトリデカエレルヨ」と。

 祖父母の愛情を一身に受けて育ったのに、祖母の命日も忘れて、今日に至っている。

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