2026年05月29日(金)

コラム・エッセイ

No.43 イサム・ノグチの庭園美術館

美人薄命 走れ!おばさん 中村光子

 素人の旅行記ほど面白くないものはない。だから書かなければよいのだが、十、十一月の二カ月間、長い人生の中で、これほどの旅ざんまいの日々はない。まあ、旅の合間のエピソードや、あれこれ考えた人生観ぐらいなら良かろうと書きまくった。

 読み返してみた。やっぱ、面白くない。やれ、東北の山がきれい、やれ、食べ物がおいしかっただの…と。

 宮本輝の『ひとたびはポプラに臥す』全六巻のシルクロード紀行や、司馬遼太郎の『街道を行く』シリーズは息つく間もない面白さだ…。トホホ、大作家を引き合いに出して嘆くなんて…馬鹿だ。

 だが、私はまた小旅行をした。そして、また書く。書きたい。

 行き先はイサム・ノグチ庭園美術館(高松・牟礼町)だ。何年か前、愚息、熊五郎が行きたい美術館だが、日程と開館日が合わないと残念がった。私はそれを覚えていた。

 周南文化協会会長の西崎さんが周南市文化振興財団主催の文化バスに「空席がある」と言われ、飛びついた。初めて文化バスツアーに参加した。今回で四十九回目の四国日帰りツアーは長い一日だったが、心配り気配りの行き届いた旅で大いに楽しんだ。

 イサム・ノグチ(一九〇四―一九八八)を知ったのは二十歳のころだ。広島の元安川と記憶するが、橋の欄干のデザイン者、という程度の拙い知識である。

 ノグチは庵治石(あじいし)の産地、高知市牟礼が気に入り、一九六九年から二十余年間、ニューヨークと牟礼を居住地にし、制作活動の場とした。さすが庵治石の産地、牟礼にはたくさんの石材店が軒を並べている。

 美術館の開館は週三日の完全予約制、それも一日三回だ。いつでも入館はできない。

 ノグチの母で作家のレオニー・デルモアのために創ったという、険しいが、見晴らしのよい高台にある彫刻を見た。眼下の町並みを眺めながら、作品は理解できなかったが、母への想いは理解できる気がした。

 庵治石の石垣に囲まれた広大な庭園にはノグチの思い通りに配置されたであろう作品群が待っていた。作品には題名がない。見学者の感性にゆだねる、のだそうだ。もらったパンフレットに、勅使河原宏にノグチが語った「自然が許してくれる過ち」という話があり、何となく私の腑(ふ)にも落ちた。

 自然への畏敬に平伏しながら、ノグチの制作態度は停まることを知らなかったろう。作品に時々話しかけた。相対している堅い石の彫像に“深い愛”を感じたのは私だけか。

 いつか愚息と行き、彼の話を聞いてみたい。

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