2026年10月29日(木)

コラム・エッセイ

又々 神無月(三)

随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)

 ここの山の刈干しゃ すんだよ
 あすはたんぼで 稲刈ろかよ

 私の好きな「刈干切唄」の歌い出しです。この唄のふるさとは宮崎県高千穂。九州山地の山深い奥日向とも呼ばれる地は神話と伝説で有名で、民謡の宝庫としても知られます。

庭の山椒の木 鳴る鈴かけて
鈴の鳴るときゃ 出ておじゃれよ

 椎葉地方の「稗つき節」とともに宮崎県民謡の代表作。稲刈りの頃、高千穂の山々で笹や茅を刈る光景がみられます。1メートルを超える大鎌をふるって急斜面で重労働が続きます。その折、歌うのが「刈干切唄」。一谷一節といわれるように谷あいの一つ一つに名人がいて独特の味わいを競ってきました。節を引っ張りのばした切々たる響きが峡谷にこだまします。旋律の美しさは民謡の中でも屈指のものです。

 民謡は日本人の生活の中で歌い継がれてきました。海や田畑、山での仕事とともに労働歌として生まれた民謡が多いです。戦後の高度経済成長が終わった昭和50年代に民謡が再び脚光を浴びたことがありましたが、また下火になりました。NHKがFMラジオで毎週火曜日「民謡をたずねて」、テレビで随時「民謡魂ふるさとの唄」を放送しています。民謡を生み出した風土、人々の暮らしがどのように変貌したのか。民謡を自分たちの唄として歌い継いできたふるさとの心は依然として生き続けていることを知ります。豊かさと引きかえに失ったものにも気づかされます。
 
 文化とは生活であり、習慣であり、人間のあり方そのものです。文明が古いものを棄てて常に新しいものを求める中で、文化の意味が問い直されています。衣食住が足って心の充足をもたらすのは文化です。音楽や演劇、舞踊、美術や工芸、書やお茶、お花などさまざまな活動に日夜努力している人たちがいます。人生をかけて自らを表現しているのです。

 周南文化協会は11月3日「文化の日」に遠石会館で恒例の記念式典を催します。文化功労賞2名と文化振興賞1名の授与式と祝賀会。文化功労賞は俳句の木村武馬さん(号・たけま)、合唱の野村文子さん、文化振興賞は筝の柴崎恵美子さん(号・歌園)。仲間たち90余名が出席、その功績を称えてお祝いします。祝賀会は出会いの場でさまざまなドラマが生まれます。

 花の翳まとうて白く戻りけり
 ふとんごと母引く窓に後の月
 一村を転がしてをり芋の露

 (木村たけま句集『花翳』より)

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