コラム・エッセイ
「回天」追悼式
翠流▼回天碑前の参列者席の左側で「どさっ」と音がした。最前列にいた藤井市長がすぐに立ち上がって音の方に駆けていった。出席していた子どもが倒れた音だった。大津島の回天記念館前庭で開かれた回天搭乗員、整備員、戦場まで回天を運び、帰ることのできなかった潜水艦の乗員の追悼式での出来事だった。
▼子どもは間もなく元気になったが、追悼式の最後に遺族を代表してあいさつした故塚本太郎少尉の弟、塚本悠策さん(84)も藤井市長の素早い行動にふれ、市長のリーダーとしての姿勢、平和の島スピーチの入賞者など若い人たちが加わっていることに接した喜びを話した。
▼スピーチの入賞者、サビエル高3年の新久保万央さんは350人の参列者にマザーテレサの言葉から、「当たり前」の家族を大切にすることが世界平和につながると訴えた。このコンテストで基調講演した俳優の塩谷瞬さんも参列していた。回天搭乗員を描いた映画「出口のない海」への出演が縁になっての参加だったが、講演ではロシアのゴルバチョフ元大統領と面会した時、元大統領の体調を考慮して面会は10分間の予定だったが、ゴルバチョフ氏は45分間、戦争をなくさなければならないと熱く語ったという。
▼世界のリーダーも高校生も願う平和。紛争、戦争の原因となっていた東西の対立が解消して30年がたった。しかし世界は新たな対立、分裂の動きが目立ち、戦争も絶えない。それでも塚本さんと同じように未来への希望を感じた参列者も多かったであろう、出撃から75年目の追悼式だった。(延安)
