コラム・エッセイ
武井武雄展
翠流▼周南市美術博物館で開催中の武井武雄展は童話、童謡と並ぶ童画の世界を創造した“巨人”武井武雄(1894―1983)の業績を紹介している。その作風から大正浪漫、大正デモクラシーという言葉を思い起こした。
▼その中で印象に残った展示品が手づくりのトランプ。「戦争が終わってまもなくのころ、娘にねだられて作ったもの。使用ずみの古い葉書を利用し、一枚々々手描きで描いています」と説明がある。
▼子どものために描かれる絵画だからこそ、その魂にふれるものでなければと描かれた作品は世界の芸術の潮流も取り入れたものも多い。戦後、限定本として製作された刊本作品は多彩な技法を駆使して作者の思い通りの本を次々に実現させた。セルロイドに螺鈿(らでん)をほどこしたり、紙の原料のパピルスの栽培から始めて4年がかりで作ったものもある。
▼トランプは戦後間もないころ、故郷の長野県の岡谷市に疎開し、手ごろな紙もない中で東京から運んだ荷物の中のはがきを使ったのか、長方形に切りそろえて裏面にハートやダイヤのマーク、クイーンやキングの絵が丁寧に描かれている。
▼最近の世界情報は大恐慌こそ起きていないが、大震災や、欧米の移民排斥を求める勢力の台頭など大正から昭和へ移るころに似ていないこともない。その中で、実感は少ないものの、好景気が続いているといわれる。
▼日中戦争から太平洋戦争へと進んだ悲劇を繰り返さない知恵を戦後の70年間に日本人が身に付けたと信じたい。 (延安)
