コラム・エッセイ
第三十七手「囲碁AIの衝撃②」
「碁」for it 小野慎吾今回は前回の続きより紹介します。
2016年3月に「Google Deepmind」社の人工知能である「アルファ碁(AI)」と対戦した時の人間界の最強棋士は「イ・セドル」(韓国棋院)です。5番勝負の内、3連敗を喫し、人間側は1勝も出来ないのではないかと思われました。3敗した事により5番勝負自体の勝利も無くなりました。自身も後に意気消沈していたと著書で述べていましたが、4局目は思わぬ結果になります。
4局目は、人間側が広い盤面の一角を集中して攻め、主導権を握っていたかのように見えました。しかし、アルファ碁は盤面全体の動きを重視し、対局的なアプローチで有利を展開していきます。囲碁のゲームが終了するのは「約250手前後」が一番多い手数です。そんな中、77手目にはアルファ碁の方が勝勢を既に盤石にしていました。
対局自体には両者持ち時間があり、その大半をイ・セドルは消費をしていました。そんな中78手目が打たれました。囲碁の技名では「ワリコミ」という技です。その一手を見た各国のトッププロ棋士は、最初は「ついにイ・セドルも負けすぎておかしくなったか?」というような変な判断に思われました。
時間が経つにつれ、賞賛の声に替わっていき「やはりイ・セドルは天才か」と言われだします。実際にこの78手目自体は1分間で何万通りも考えると言われるアルファ碁の予想に無い着手だったようです。
この一手から流れが変わり、水が流れるが如くアルファ碁は今までの強さが嘘のような弱い着手が増え、イ・セドルが逆転勝ちで人間側が初勝利を収めます。78手目は「神の一手」といわれるようになり、漫画「ヒカルの碁」で永遠に求め続けられた「神の一手」と言われる手が現実世界でお披露目になります。
後に、アルファ碁の開発チームから「78手目が来るとアルファ碁が予想した確率は1万分の1以下であり、まだアルファ碁に改良の余地があるという事がわかりうれしく思った」というような趣旨のコメントがあります。
この5番勝負自体は人間側から1勝4敗とこの1勝のみに終わります。その数年後にさらに改良をした囲碁AIがその時の最強棋士と対局し、完全勝利という形で囲碁AIが人間を超えたという事を証明します。
その当時は人間が超えられたという事は衝撃でしたが、今では囲碁AIから人間側は「技術」を学び、囲碁自体のレベルの飛躍に繋がっています。
上記の熱戦を繰り広げたイ・セドルですが2019年に囲碁AIが登場した事で、「必死に努力して人間界でナンバー1になってもトップではないことがわかった。」という事でプロ棋士を引退します。
棋士というのはどこまでたっても研究熱心であり、「負けず嫌い」である事を彼は教えてくれました。
悔しさを糧に「碁」for it(頑張る)!
広島県の碁会所に導入されているサーモグラフティ
