コラム・エッセイ
(35)輝安鉱(きあんこう)
再々周南新百景 佐森芳夫(画家)輝安鉱という聞きなれない鉱石を理解するためには、「元素の周期表」を参考にするとより分かりやすい。原子番号51番の元素名はアンチモンで、Sbが元素記号となる。その元素を含む唯一の鉱物が輝安鉱である。
輝安鉱の特徴は、銀白色に輝く結晶にあると言える。かって、愛媛県の市ノ川鉱山で産出された針状に伸びる巨大な結晶は、世界各地で標本として保存されているほどであるが、ほとんどの場合は塊として採掘される。
しかし、図鑑などに掲載されている多くが、きれいに結晶化された輝安鉱であるため、誤解されがちである。鹿野鉱山でも見事な結晶が採掘されたこともあったようであるが、残念ながら一度も目にしたことがない。
以前、地元の人から保管していた輝安鉱の結晶を当時の鹿野町に寄贈したと聞いたことがある。いずれ展示されているところを目にする機会があるものと期待していたが、今日に至っても実現しないままになっている。
もし、どこかに残されていれば貴重な資料となるであろう。ただし、輝安鉱の結晶は変色しやすいので、時間の経過とともに輝きを失い黒ずんでいるものと思われる。それでも、価値が失われたことにはならないが。
輝安鉱を取り扱うためには、他の鉱石以上に正しい知識が必要となる。
取扱いを誤った場合には、最悪の結果を招くこともある。必要以上に恐れることはないが、中途半端な好奇心だけで接するのは、避けた方がよい。
さらに、鹿野鉱山に限って言えば、鉱山跡に近づくのは非常に危険である。坑口のほとんどが、垂直に掘られた竪坑(たてこう)のままの状態で山中に残されている。誤って墜落すれば、助かることは不可能であろう。
危険な場所に近づかないことだけでなく、地主さんの許可なしに立ち入ることは厳に慎むべきである。安全とルールを守ることが、かの有名な女王が使ったとされるアイシャドーの輝きに巡り合える必要条件となる。