コラム・エッセイ
(40)アサギマダラ
再々周南新百景 佐森芳夫(画家)10月21日、今年もアサギマダラが裏庭にやって来た。最近の異常気象の影響であろうか、すでにフジバカマは満開の状態になっていた。いつ来るのかとやきもきしていたところ、ようやく昨年より2日遅れで飛来した。
朝9時過ぎにフジバカマの周辺を舞っている1頭のアサギマダラを見つけた時の驚きと喜びは、筆舌に尽くし難い。ガラス越しにアサギマダラの動きを観察しながら、ゆったりとした時間を過すのが最高の贅沢である。
アサギマダラの飛来を待ち焦がれる理由としては、優雅に空を舞う姿の美しさや人をあまり恐れない親しみやすさに加え、小さな体で長い距離を移動する「旅するチョウ」のロマンあふれた特徴を上げることができる。
いずれも、他のチョウにはない魅力を感じさせる。ところが、アサギマダラの実態については知られていないことも多い。たとえば、寿命については、羽化してから4~5ヶ月とされていることは余り知られていない。
これらのことが伝えているのは、目の前にいるアサギマダラに会えるのは今だけということである。悲しい現実であるが、北から南に移動したアサギマダラは、それぞれの行き先地で子孫を残したあと一生を終わる。
そして、次の年の春にはサナギからかえった新しいチョウが北上を始める。あれほど注目を集めた南下であったにも関わらず、この時の様子はほとんど知られることがない。誰にも気づかれない中を、北に向って飛ぶ。
南下の時にアサギマダラのエサとなるフジバカマは、知られ過ぎているが、北上の時にエサとなるものは不明である。調べてみると、水前寺菜(すいぜんじな)の名前が出てきた。来年の春には、ぜひ観察してみたい。
偶然、アサギマダラの後翅(こうし)にハートマークがあるのを見つけた。特に珍しいことではないかもしれないが、これほどハッキリ見えるとなぜか嬉しくなる。また一つ、アサギマダラの魅力を知ることができた。