2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(51)薄明光線(はくめいこうせん)

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 空から、幾筋もの光の柱が地上に降り注いでいた。特に珍しいと言えるほどの光景ではないかもしれないが、その光景を目の当たりにすると、なぜか胸をうたれるような気がして、思わずその場に立ちすくむ事になる。

 しかし、冷静になって考えてみると、雲にかくれた太陽の光が雲の切れ間や雲の端などから漏れ出ることによって、光の柱が放射状に地上に降り注いでいるように見える単なる自然現象に過ぎないと言うべきであろう。

 この気象現象は、薄明光線と呼ばれるらしいが、それ以外にも多くの別名がある。調べてみると、光芒(こうぼう)、天使の梯子(はしご)、ヤコブの梯子、天使の階段、レンブラント光線、ゴッドレイなどである。

 そのほとんどが、宗教に関係することとして使われているのは、その神秘的な光景から考えれば、当然と言えば当然であろう。そんな中で、どうしても頭から離れないのがギュスターヴ・モローの一枚の絵画である。

 パリの9区にあるギュスターヴ・モロー美術館は、かって彼の住居兼アトリエであったものが、そのまま美術館として使用されている。そのために、狭い室内の壁は隙間がないほど多くの作品で埋め尽くされている。

 その作品の中で、異彩を放っていたのが、『新約聖書』の洗礼者ヨハネを題材にした油彩画の「告白」であった。領主ヘロデの妻ヘロディアの娘サロメが踊る目前に、血のしたたるヨハネの生首が幻影となって現れる。

 残酷過ぎる場面となっているが、宙に浮かんだ生首の周囲に描かれている光背(こうはい)によって、なぜか救われたような気がした。薄明光線を見る度に、ギュスターヴ・モロー美術館で受けた衝撃がよみがえる。

 サロメは、オスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」やリヒャルト・シュトラウスのオペラ「サロメ」で有名である。絵画では、モロー以外にレンブラント、カラバッジョ、ティツィアーノなど多くの画家が描いている。

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