2026年05月01日(金)

コラム・エッセイ

(79)カヤツリグサ

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 子供のころの思い出には、蚊帳(かや)のある風景が必ず登場する。まだ、エアコンも扇風機もなかった時代のことであるが、夏の夜になると、家じゅうの障子戸を開けっ放しにして寝るのがごく普通のことであった。

 そのため、蚊などの害虫から身を守るために使われていたのが蚊帳であった。蚊帳は、麻などによって編まれた通気性のある布を立方体に継ぎ合わせたもので、上部の四隅を寝間の天井などから吊るして使っていた。 

 寝る準備が始まり布団が敷かれると、その布団を覆いかぶせるように蚊帳が張られる。蚊帳を出入りするためには、蚊帳の端を上げて、素早くくぐらなければならない。上手にくぐらないと、蚊に入られることになる。

 そんな時代が長く続いたが、扇風機の登場や網戸の設置などによって、蚊帳を使う必要が少なくなっていった。活躍の場を失った蚊帳は、次第に姿を消すことになる。今では、蚊帳を知る人も少なくなったに違いない。

 すでに、夏の夜の懐かしい思い出の一場面となって、消え去っていった蚊帳ではあるが、今も身近なところでその名前を目にすることができる。それが、漢字で書くと「蚊帳吊草」となる「カヤツリグサ」である。

 「カヤツリグサ」は、道端や荒れ地、田んぼのそばなど、あらゆる所に生えているごく普通の雑草の一種と言える。これといって目立つほどのものがないので、あらたに探しだそうとすると見つけにくいかもしれない。

 種類が非常に多いので、どれが本物であるかはわからないが、線香花火によく似たかたちをしたものや、茎が三角形をしたもの、独特の香りがあるものを、とりあえず「カヤツリグサ」と決めつけることにしている。

 その「カヤツリグサ」の名前の由来には、三角形の茎の両端を割っていくと、中央あたりで蚊帳を吊ったような四角になるからとされるものがある。遊びとしておこなわれていたらしいが、当時の遊びには夢があった。

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