コラム・エッセイ
(81)ヘクソカズラ
再々周南新百景 佐森芳夫(画家)![]()
「ヘクソカズラ」を漢字で書くと、「屁糞葛」となる。その漢字に書かれているのは、まぎれもなく「屁(へ)」と「糞(くそ)」である。誰にはばかることなく、屁と糞が正々堂々と植物の名前として使われている。
たしかに、その葉を引きちぎって臭いをかぐと、屁や糞によく似た独特な臭いがする。その臭いから、ヘクソの名前がついたとしても、仕方ないと思わざるをえないが、植物名としては素直に賛同することはできない。
いまさら調べてみるまでもなく、屁は肛門から排出されるものであり、糞は肛門から排泄されたものである。排出と排泄の違いはあるが、いずれも、生命を維持するために必要不可欠な生理現象ということができる。
これらの言葉は、植物以外にも多く使われている。屁は、「屁とも思わない」や「屁の突っ張りにもならない」などとして、糞は、「目糞鼻糞」や「味噌も糞も一緒」、「胸糞悪い」、「へた糞」などとしてである。
ところが、時代が進むに従って、これら屁や糞などの言葉が次第に下品なものとして避けられるようになっていく。その一因となったのは、感染症予防として環境衛生の改善が進められたことにあるのかもしれない。
不快な言葉として生活の隅に追いやられ、人前で発することがはばかられるようになった屁や糞であるが、日本最古の書物である『古事記』や『日本書紀』の中には、それらを取り上げた多くの神話が記されている。
また、『万葉集』には、「菎莢(ぞうきょう)に延(は)ひおほとれる屎葛(くそかづら)絶ゆることなく宮仕せむ」と読まれている。いまさら昔に帰ることはできないが、古き良き時代を懐かしむことは可能である。
長く続いた暑い日がやっと過ぎていった。ようやく秋が感じられるようになって、一息ついてみると、ヘクソカズラの別名である灸花(やいとばな)の花は、あとに小さな青い実を残して、いつの間にか消えていた。
