2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(45)グロリオサ 

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 サイケデリック・アートやヒッピー、放浪といった言葉がまだ輝きを失っていなかった時代に、バックパッカーの一人として滞在中のパリからスペイン、イタリアを巡る約一カ月の旅に出かけた。

 バックパッカーとは文字通りリュックサックを背負った旅行者のことで、お金をかけない貧乏旅行の代名詞となっていた。多くの若者が国内だけではなく海外にまで飛び出して行った時代でもあった。

 旅行中には、そんな若者の多くに出合った。気が合うと道端や公園などで、旅行の情報交換だけにとどまらず旅の目的や旅に出た理由、これからの予定などを語り合うこともあった。

  その中でスペインのマドリードで出合った若者の多くが、これからアフリカに渡ると言ったことに驚かされた。なぜアフリカかと聞くと、すぐ近くにアフリカがあるからとの返事があった。

 地図をみると、確かにスペインがあるイベリア半島とアフリカ大陸を隔てるジブラルタル海峡は非常に狭いことが分かる。その距離は何と約15㌔で、フェリーに乗ればわずか2時間程度で到着する。

 一緒に行かないかと誘われる度ごとに、予定していなかったアフリカ行きに気持ちが揺らいだ。モロッコやアルジェリア、エジプトなど未知の地が身近にあるというだけで、夢が膨らんだ。

 しかし、結局ジブラルタル海峡を渡ることなく、バロセロナを経由して最大の目的地であったイタリアに向かった。憧れのルネサンス絵画と対面できる喜びは、何にも代えがたいものがあった。

 アフリカのイメージが強いグロリオサの奇妙で不思議な花を見る度に、当時のことを思い出す。

 一人旅が難しくなった今の年齢となってみれば、あの時にジブラルタル海峡を越えなかったことが悔やまれると、素直に言えるような気がする。

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