コラム・エッセイ
(47)朝顔(団十郎)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)![]()
庭先で朝顔の花が咲いている。栗の渋皮の色に似ていることから栗皮茶(くりかわちゃ)といわれる茶色の花は、歌舞伎役者の市川団十郎の名前にちなんで「団十郎」と呼ばれている。
かっては人気の品種として多く生産されていたらしいが、一時生産が途絶えたとも言われている。その後、復活したものの、当時と同じものであるとの確証は得られていない。
名前の由来に江戸時代の二代目市川団十郎が歌舞伎十八番の「暫(しばらく)」の衣装に柿色を用いて人気を博したことがあげられていることもあり、花の色に伝統や気品が感じられる。
何の罪もない善人が悪人に捕まり殺されようとしている時に、「しばらく」といって団十郎が演じる鎌倉権五郎(かまくらごんごろう)が現れ大活躍をする物語は、まさに現在でいうヒーローものであろう。
今年の夏は、いまだかつて経験したことのないような特異なものとなった。毎年恒例となっていた花火大会や夏祭りなどの行事が次々と中止され、プールや海水浴場も開かれることはなかった。
子供たちにとって楽しみであったであろう夏休みも、新型コロナウイルスの影響で非常に短くなった。そのうえ移動の自粛で旅行することも難しくなり、夏の思い出を残せたがどうか心配である。
室外での野球やサッカーなどのスポーツ観戦は、入場制限のもとで行われるようになったものの、室内でのコンサートや映画、観劇などは依然として厳しい状況が続いている。
それでも、朝顔の花はまるで何も無かったかのように日の出前から咲き始めて、やがて昼ごろにはしぼんでゆく。その何気ない風景のひとコマを、過ぎて行く特異な夏の思い出として記憶に留めておきたい。
