コラム・エッセイ
(38)猫のノンちゃん
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)![]()
梅雨入りを前に、すでに夏のような暑い日が続いている。いつもの年であれば、暑さに対する不満が多く聞かれるところであるが、今年はほとんど聞かれることがない。
今までと様子が違っているのは、夏になればインフルエンザと同じように新型コロナウイルスも終息するのではないかという期待感がどこかにあるからかもしれない。
その期待通り5月25日には、緊急事態宣言が全国的に解除された。第2波が心配される一方で、活動再開の動きが各地で広がっている。周南市川崎の川崎観音堂でも、6月17日の川崎観音の縁日が再開される。
3月以来の待ちわびた法要である。その間境内では、藤の花が咲いて散り、つつじの花が咲いて散っていった。そして今、参道ではアジサイの花が久しぶりの参拝を待ちわびている。
長い時間が静かに過ぎていった境内であるが、それでも幾つかの出来事があった。観音堂にいる猫のノンちゃんが5月の中旬に4匹の子猫を産んだ。ノンちゃんは、恐れで人見知りの性格のため人前にほとんど姿を見せたことがない。
ある日、そのノンちゃんが、突然目の前に現れて鳴き始めた。人に慣れていないノンちゃんの顔が恐怖で引きつっているかのように見えた。本当は、逃げ出したかったに違いない。それでも、我慢して何度も何度も何度も鳴いていた。
おそらく、子猫を探していたのであろう。見ず知らずの人間にまで行方を尋ねるほど必死なノンちゃんの姿に胸を打たれながら、残酷にも何も答えてあげることができなかった。
前日に2匹の子猫が死んでいたことを聞いていながら、どうしてもそのことを伝える勇気がなかった。
