コラム・エッセイ
(30)猫のカンちゃん(周南市川崎)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)![]()
新型コロナウイルス感染予防のため、4月17日から19日まで行われる予定であった川崎観音御開帳法要は中止となった。12年に一度の御開帳が行われ秘仏を拝観できるものと信じていただけに残念でならない。
そんな無念さを洗い流すかのように雨が降った。散り始めた桜の花弁が、水たまりの中で小さな固まりとなって浮かんでいる。早朝の参拝を終えて山門にさしかかった時に、雨の中から猫が現れた。
昨年この境内で産まれた数匹のうちの一匹で、野良猫とは思えないほどの人懐っこさが参拝者の間で人気となって、観音堂にいることから「カンちゃん」と呼ばれていた猫である。
足元にまとわりついて歩くことができないほどの時もあったが、成長するにしたがって行動範囲も広がっていったのだろうか、次第に見かけることも少なくなっていった。
久しぶりに見るカンちゃんは、体も大きく成長し精悍な顔付きになっていた。しかし、どこか動きがおかしいと思ったら、後ろ足の片方が動かない状態になっている。
その訳を聞いても答えることもなく、その場で横になり毛づくろいを始めた。今まで一度も餌を与えたことも、体を撫でてやったこともない猫が、目の前で無防備な姿をさらけ出している。
動かない足をかばいながら、何度も何度も丁寧になめ続けている姿を見ていると、カンちゃんが足が動かないことを一生懸命に訴えかけているように思えてきた。
御開帳の日を待ちわびていたかのように帰ってきたカンちゃんに、どうしてやることも出来ない自分の不甲斐なさを詫びながら、足が一日も早く良くなるように祈ってあげたいと思った。
