2026年10月23日(金)

コラム・エッセイ

(36)黒法師 (くろほうし)(サンシモン)

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 玄関の横に多肉植物が植えられた大きな鉢が置いてある。いろいろな種類が植えられている中で、背丈の高い植物がひときわ目立っている。聞けばその植物には、黒法師という奇妙な名前が付けられているという。

 その名前の由来について調べてみると、葉っぱの色が黒く見えるからなどの説明はあったが、なぜ黒法師と呼ぶかについての具体的な理由を見付け出すことはできなかった。

 もしかしたら、そのことに特に深い理由がある訳ではなく、法師が一般に僧侶を意味していることから単に托鉢をしている僧侶の姿に似ているように見えたからかもしれない。

 そう言って自分自身を無理やり納得させていたのは、黒法師らしきものをどこかで目にしたようなかすかな記憶があるものの、どうしても思い出すことができなかったからである。

 ところが最近になって、記憶の中に残ったままとなっていた黒法師の姿を自宅の本棚の中にあった栗田勇著『一遍上人-旅の思索者』(新潮社)の外箱の装丁に発見することができた。

 それは、時宗の開祖である一遍上人の生涯を描いた「一遍聖絵(ひじりえ)」の中の一場面で、海辺の道を再び九州大宰府に向かって進む一遍智真(ちしん)の一行が広い風景に小さく描かれている。

 先頭を行く一遍は黒い袈裟をまとい、手には黒い傘の柄が握られている。その様相は、まさに黒法師と呼ぶにふさわしい。画面にはその後の一遍の苦難を暗示するかのように、鳥の群れが反対方向に飛び去っている。

 「一代聖教(いちだいしょうぎょう)みなつきて南無阿弥陀仏になりはてぬ」すべてを捨て去った一遍が最後に残した言葉である。

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