コラム・エッセイ
(94)キツネノカミソリ(狐の剃刀)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)![]()
調べてみると、花には狐の剃刀(キツネノカミソリ)という名前が付けられていることが分かった。草木が生い茂げる中に突如として現れる赤褐色の花は、多少不気味ではあるが美しいと言える。
それにもかかわらず、狐の剃刀という一風変わった名前が付けられていることが、どう考えてもおかしいような気がする。そもそも、カミソリという名前が花にそぐうはずがないであろう。
それは彼岸花と同じように有毒植物であることが原因かもしれないなどと、思いを重ねるたびに謎が深まっていった。ところが、咲いている花に葉がないことに気づいてから一気に疑問が解決した。
花にこだわり過ぎて、間違った思い込みをしていたことになる。植物の名前が花だけの形体を表しているとは限らないことを忘れていた。見えないものにも思いを巡らせることが必要であろう。
春先の山の中で、落ち葉の間から伸びた新緑の葉を幾度も見たことがあるが、夏に咲いている花と同じ植物だと気づくことはなかった。花が咲くころには、葉が枯れているので当然かもしれないが。
それにしても、見事な変わり身には脱帽するしかない。さらに、記憶をたどると、重なるようにして伸びた新緑の薄い葉は、理髪店で髭を剃る時に使うカミソリのように見えていたはずである。
それが、まさにカミソリと呼ばれる由縁であろう。現在では、安全カミソリや電気シェーバーを使うことが普通になってきたが、理髪師が使う折りたたみカミソリが魅力的であることに変わりはない。
下刈り作業の途中で、思わず刈払機のエンジンを止めた。目の前に現れた赤褐色の花が群生する姿は、キツネノカミソリと言うよりもキツネの嫁入りと言っていいほどのにぎわいに見えた。
