2026年07月15日(水)

コラム・エッセイ

(72)彼は誰時(かわたれどき)

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 やはり、2月には梅の花がふさわしい。各地で咲いている梅の花を見てそう思う。それは、人々が寒さで震える中でも、時には雪に埋もれながら、やがて来る春を一足先に知らせてくれる花だからであろう。

 また、その一方で梅の花が2月の花であることを強く印象づけるものが「花札」だったような気がする。最近では使う機会がほとんどなくなったが、それでも忘れることは決してない。

 久しぶりに、その花札を取り出してみた。かつては、賭博に使用されるなど悪いイメージが定着していたこともあるが、その古い歴史に込められた絵柄には、見るだけで心を豊かにするものがある。

 花札には、1年12か月のそれぞれの月に花鳥風月の絵柄が決められている。たとえば、1月であれば松に鶴、2月には梅にうぐいす、3月には桜に幕など、その巧みな選定にはただただ感動するしかない。

 遊び方には、2人で行う「こいこい」や2人以上で行う「花合わせ」などがある。遊び方によって、各札に点数や組み合わせによる役が決められているので、合計点数を競うことができる。

 その役の名前にも、五光、花見で一杯、猪鹿蝶、赤短などがあり、いずれも味わい深い。赤い短冊札には「あのよろし」と書かれているが、正しくは「あかよろし」で実に素晴らしいという意味らしい。

 古い言葉には、情緒豊かな日本の文化を感じさせるものが多い。たとえば、夕暮れ時のことを「たそかれどき(誰そ彼時)」と言うように、明け方のことを「かわたれどき(彼は誰時)」という。

 再び、雪が降った。国道2号の下り線では、積雪の影響で長距離トラックの長い渋滞の列ができていた。その向こうには、雪の屋根と工場と「かわたれどき(彼は誰時)」の空が広がっていた。

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