2026年10月23日(金)

コラム・エッセイ

(11)アオギリ(青桐)(光市室積市延) 

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 鎌倉時代の説話集である『十訓抄』の「第三、人倫を侮らざる事」には、性空上人の話が登場する。その内容は、光市室積にある峨嵋山普賢寺の縁起文と一部がほぼ同じものになっている。

 生身の普賢を拝むことを願っていた性空上人は、夢のお告げにしたがって摂津の国江口に行く。そこで遊女が「周防なる室積の中の御手洗に風はふかねともささら浪たつ」と歌う。

 目を閉じると遊女が普賢の姿となり「実相無漏の大海に五塵六慾の風は吹ねとも随縁真如の波の立たぬ時なし」と説き、目を開けると再び遊女の姿にもどる。

 上人が泣く泣くその場を去る時に、遊女は「このことを口外してはいけない」といって息絶える。普賢寺の縁起では、上人は室積に至り海から引き上げられた普賢菩薩を見つけて一寺を建立したとされている。

 これらに類似する逸話は数多くあり、能や歌舞伎、長唄などにも取り上げられ、「時雨西行」「江口」などの古典芸能の名作として現在でも演じ続けられている。

 室積の市延には、普賢寺の縁起に記された武下殿と称する人の墳墓が残されている。付近に目印となるものが無く勘をたよりに自力で探すしかないが、一度は訪れてみたい場所といえる。

 興味深いのは、かってその周辺に普賢寺があったとされていることや武下家の女子が摂津の国江口の遊女や普賢菩薩と関連付けられていることであろう。

 経路の途中では、街路樹として植えられたアオギリが葉っぱと実をきれいに落としていた。その様子は、枝の先に無数の星を付けているようにも見えた。

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