2026年07月15日(水)

コラム・エッセイ

(33)ミヤコワスレ(都忘れ)

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 新型コロナウイルス感染症予防のため、外出したい気持ちを抑えながら「ステイホーム」を続けていると、普段はほとんど気に留めることのなかった身近な風景に目を向けることが多くなった。

 庭と呼べるほどでは決してない家裏の狭い空地では、野菊に似た紫色の可憐な花が咲いている。地味ながらもどこか気品を漂わせているのは、都忘れという花の名前によるものなのかもしれない。

 ところが、その花がなぜそう呼ばれるようになったかについては、おぼろげながら京の都を忘れなければならない事情があったのだろう程度で、それ以上の詳しいことは知らないでいた。

 「百敷や古き軒端のしのぶにも なほ余りある昔なりけり」 小倉百人一首の100番歌の作者は、第84代天皇の順徳院である。百敷(ももしき)とは宮中のことで、宮中の古びた屋根の端の忍ぶ草を見ると、いくら偲んでも偲びきれないほど昔が懐かしい、という意味であろうか。その歌からは、朝廷の置かれた経済的な苦境が読み取れる。

 やがて鎌倉幕府に対する後鳥羽上皇、順徳上皇親子など朝廷側の不満が、承久(じょうきゅう)3年(1221)の「承久の乱」として爆発する。しかし、乱はあっけなく朝廷側の敗北に終わる。

 その後には、後鳥羽上皇が隠岐の島、順徳上皇が佐渡が島、土御門上皇が土佐(後に阿波)にそれぞれ配流される。配流は、死罪と同じと言われるほど重い刑罰であった。

 佐渡が島に流されていた順徳上皇は、荒れた庭に咲く一輪の花を見て「今日よりこの花によって都のことを忘れられる」と言ったという。未練を断ち切ることのできない苦衷を、この花に託したのであろうか。

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