2026年07月15日(水)

コラム・エッセイ

(99)トンボ(蜻蛉)

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 夏になると、ハグロトンボが裏庭にやって来る。毎年のように来ることに気づいたのは、かなり前のことであったような気がする。なぜ、決まったように、この場所に来るのかは不明である。

 狭い裏庭に、特に池があるわけでも、水場があるわけでもない。それでもやって来る理由は、もしかしたら、壁際に一日中ほとんど日が差さない場所があるので、そこが気に入っているのかもしれない。

 あるいは、ここが外敵に襲われにくい安全な場所と考えているのであろうか。他のトンボのように機敏に飛ぶこともなく、蝶のように黒い翅(はね)をひらひらさせて過ごすのが日課となっている。

 時にはアナベルの葉に止まり、時にはコケの生えた石の上で休む。晴れた日にも、雨が降っている日にも、この場所を離れることはない。確かめたわけではないが、夜は葉かげなどで眠っているのだろう。

 9月に入ると、いつの間にかトンボの姿が見えなくなった。あれほど賑わっていた裏庭が、夏休みが終わった後のように静まり返っている。その静けさが、秋の気配を連れて来たような気さえする。

 ある朝、庭先の刈り取ったばかりのタカノハススキの穂先に、別のトンボが止まっていた。眠っているのか、近づいても動く気配がない。見たことのないトンボだったので、調べてみることにした。

 驚いたのは、余りにもトンボの種類が多すぎることであった。そのため、素人が種類を特定することはかなり難しいが、おそらくトンボ科アカネ属のマユタテアカネのメスであろうと思われる。

 そこで初めて、赤い色のトンボはいても赤トンボというトンボはいないことを知った。毎年のようにやってくるハグロトンボについても、もっと知るべきではなかったのかと猛省している。

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