2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(73)誰そ彼時(たそかれどき)

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 たそかれどき(誰そ彼時)の空に、夕日が沈んでいた。立ち止まって眺めていると、夕日はわずか数分でビルの谷間に消えていった。その光景は、何度見ても心を打たれるものがある。

 そのためであろか、この時間帯を表している言葉は非常に多い。それらの代表的なものが夕暮れ(ゆうぐれ)や黄昏(たそがれ)であろう。夕暮れは、日が暮れるころのことで日暮れともいう。

 一方、黄昏は当て字であることから読み方が非常に難解である。「きこん」あるいは「おうこん」とも読めるが、正しくは「こうこん」らしい。黄の字は太陽を、昏の字は暗いを意味しているという。

 しかし、たそがれの本来の意味は、辺りが暗くなりかけたころ誰の顔であるか分からないような「誰そ彼」といった状況を表したものである。同じようなものに「彼は誰」がある。

 どちらも同じ意味で使われていたが、いつのまにか「彼は誰」が明け方を「誰そ彼」が夕方を表すようになったとされている。また、かつては黄昏時を逢魔が時(おうまがとき)という言葉もあったらしい。

 逢魔が時とは、まさに「魔物に逢う時間」であったのだろうが、あえて付け加えるならば、魔物とは大きな災難や事故などだけでなく、妖怪や幽霊まで含めたものと言うべきであろう。

 また同じ意味で大禍時(おおまがとき)という言葉もある。読んだ通り、大きな禍(わざわい)の時である。何とも不吉な雰囲気をただよわせていることからも夜に対する恐怖心が感じられる。

 現在のように、暗闇を明るく照らす照明がなかった時代には、暗闇こそが恐怖の対象であったに違いない。暗闇の中で起きたすべての事故や災害を、魔物の仕業として解決するしかなかったのであろう。

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