2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(37)小判草(コバンソウ)

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 自転車通勤を続けている。片道およそ8岐路の道のりを約40分かけて走る。自転車通勤を始めたきっかけは、数年前に国や地方自治体などによって取り組まれていたノーカーデーであった。

 地球温暖化対策や交通渋滞の緩和を目的として、「可能な限り車を使用しないエコライフ」が提唱された。特に環境問題に関心があったわけでも、エコライフを目指していたわけでもないが、何かの役に立てればと思い自転車通勤をスタートさせた。

 ところが最近では、ノーカーデーやノーマイカーデーと叫ばれることもめっきり少なくなった。流行(はや)り廃(すた)りは世の常の言葉どうりに、ついには月1回程度の抜けがらを残すだけになっている。

 しかし、たとえはしごを外されたとしても、安全運転で走ることのできる自転車の快適さは何ものにも代え難い。あおることもあおられることもなくマイペースで走れる便利さを今さら捨てたいとは思わない。

 自転車専用道のそばや中央分離帯に雑草に紛れるように小判草が群生していた。その風に揺れる小判草を眺めていると、ふとフランシスコ・タレガのラグリマ(前奏曲ホ長調)の物悲しい旋律が浮かんでくる。

 小判草と西洋のクラシック音楽では一見不釣り合いに思えるが、小判草の原産地は意外にもヨーロッパである。明治時代の初期に観賞用として持ち込まれたものが、流行り廃りのあげく雑草になったという。

 題名のラグリマは、スペイン語で「涙」のことである。娘の死に際して作曲したとも言われているが、それは、ふるさとから遠く離れた異郷の地を雑草としてさまよい歩く小判草の涙のようでもある。

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