2026年07月15日(水)

コラム・エッセイ

(14)鷺大明神社(さぎだいみょうじんしゃ) 

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 以前から、気になる場所があった。自動車を走らせている時、移り変わっていく風景の中に鳥居らしきものが見えていたが、それがいったい何であるかを確かめることができないまま、時間だけが過ぎていた。

 先日、ついにその場所を訪ねることができた。脇道と並行するように建っていたのは、紛れもなく石の鳥居であった。扁額(へんがく)には、「鷺大明神(さぎだいみょうじん)」の文字がみられた。

 鳥居の柱に「文化」の文字が彫られていることから、江戸時代に建てられたものであろう。鷺大明神は疱瘡(ほうそう)の守護神であり、この地域でもかって疱瘡が流行したことがあったものと思われる。

 疱瘡といわれる天然痘は、感染力や死亡率の高い伝染病の一種であり、疫病(えきびょう)として恐れられていた。現在のように治療方法が見つからなかった時代には、疫病退散や平癒を願うしかなかったであろう。

 笹などが行く手をはばんでいたが、思いきって参道を先に進む。ヒノキと竹でおおわれた薄暗い中に、落葉に埋もれた急な石段が続く。倒木と折れた竹を避けながら登ると、境内らしき場所に到着した。

 すでに、社殿はどこにも見当たらない。木々と竹が生えた平地のあちらこちらに、文化5年(1808)と刻まれた小さな手水鉢や石板、瓦などが当時の様子を物語るかのように残されているだけであった。

 帰路の途中、鷺大明神社が合祀(ごうし)されている近くの河内神社に寄ってみた。神社があった北の方向を向いていると地元の人から聞いていた通り、境内には鷺大明神社と思われる石祠(せきし)があった。

 流行を繰り返し多くの犠牲者を出してきた天然痘も、予防接種によって昭和55年(1980)には撲滅されている。

 その長い戦いの歴史は、史跡だけにとどまらず、右腕の種痘の跡にも深く刻み込まれている。

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