コラム・エッセイ
(73)タケノコ(筍)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)最近、曇りや雨降りなど不安定な天気が続いている。そこで、一年前のこの時季の天気がどうであったかを思い出そうとしたが、まったく歯が立たなかった。体験したことにも関わらず、その記憶が完全に消えている。
しかし、忘れたとしても悲観する必要はないだろう。もしかしたら記憶する価値がないものなのかもしれない。必要なことは、その時々に目の前で展開する事柄を素直に受け入れることであり、対応することであろう。
潔くあきらめて、いつも参考にしている暦のページを開いてみた。すると、4月20日から二十四節気(にじゅしせっき)の「穀雨(こくう)」となっていた。穀雨とは、『広辞苑』に「春雨が降って百穀を潤す意」とある。
その言葉は、「百穀春雨」からきたものと思われる。しかし、二十四節気は旧暦によるものなので、現在使われている新暦とはズレがあるためそのまま適用することはできないが、参考にする価値は十分にあるだろう。
「百穀春雨」の百穀とは、いろいろな穀物のことであり、食用にする種子を穀物という。その中で有名なのが、「五穀豊穣(ごこくほうじょう)」などで五穀と言われる米、麦、粟、豆、稗(ひえ)又は黍(きび)であろう。
「穀雨」によって、種まきや野菜の苗の植え付けに絶好の季節になる。また同時に、山野の草木も驚異的な早さで成長していく。冬期の間、しばらく解放されていた草刈り作業も開始しなければならないことになる。
「穀雨」のころに成長いちじるしいのが、タケノコであろう。先日は、近所からタケノコのおすそ分けがあった。土の中から若芽を出したばかりのものを朝掘りした新鮮なタケノコは、エグミが少ないと言われている。
タケノコで多少ややこしいのは、七十二候にも「竹笋生(たけのこしょうず)」があることであろう。一般的なタケノコが孟宗竹(もうそうちく)の若芽であるのに対して、七十二候のタケノコは真竹(まだけ)のものをいう。
