コラム・エッセイ
(78)どくだみ(蕺草)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)これほど誤解されている植物は、他に類を見ないであろう。とは言っても、植物に詳しいわけではないのでそう断言することはできないが、白く清らかな十字の花を前にするとどうしてもそう言わざるを得なくなる。
「どくだみ」がこの植物に付けられた名前である。その名前から受ける印象は、いかに正しく説明したところで拭えるものではないほど強烈である。「毒」という名前が付けられた時点で定まっていたのかもしれない。
多くの人が、忌み嫌い毒と信じこんでいるものを、今さら間違いであると主張することなどできるはずがない。たとえできたとしても、正論を振りかざす頑固者として冷たい視線を受けることに違いないであろうから。
そこで、困った時の強力な助っ人である『広辞苑』(岩波書店)に登場してもらうことにした。「どくだみ」について『広辞苑』には、「毒を矯める・止める、の意。江戸時代中頃からの名称」などと記されている。
その説明から、「どくだみ」の名前が毒があるからではなく、毒を止めることから名づけられていたことが明らかとなってくる。現在のイメージとは真逆のように思えるが、いったい、どこでどう間違ったのだろうか。
さらに『広辞苑』には、「全草を乾したものは生薬の蕺葉(しゅうさい)で、消炎・利尿剤などとして用い」とある。確かに今でも、開花時の葉を乾燥させたものを「どくだみ茶」として利用している人も多いと聞く。
また、「葉は腫物に貼布して有効という」とも書かれているように、昔は火にあぶった「どくだみ」の葉を腫れ物に貼って治療をしていたこともあったようである。葉をもんだ青汁をつけても効果があるとされている。
身近にあって生活に密着した植物でありながら、書物の手を借りなければ説明できないのは残念である。これからは、「どくだみ」を庭や畑の片隅に追いやるのではなく、正面から向き合っていけるようにしたい。
