コラム・エッセイ
(81)カマキリ(蟷螂)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)七十二候の一つに「蟷螂生(かまきりしょうず)」がある。読んで字のごとくカマキリが生まれ出る頃をあらわしている。暦の上では、二十四節気の芒種(6月6日〜6月20日)の初候(6月6日〜6月10日)にあたる。
すでに過ぎ去った期間ではあるが、先日、アジサイの仲間であるアナベルを眺めていた時に偶然カマキリの幼虫を目にしたことから、遅きに失したような気もするが、七十二候にある「蟷螂生」のことを思い出した。
子供の頃には、食べ物の麩(ふ)によく似た卵鞘(らんしょう)と呼ばれるものの中から、カマキリの子供が次々と出て来るところを何度か目にしたこともあったが、最近ではそんな光景を見ることができなくなってきた。
数百匹が一度に生まれると言われる場面は、神秘な世界そのものであろう。それらの幼虫の中で無事に成虫になれるのは数匹と聞けば、なおさらである。生存競争の世界で生きることがいかに厳しいかを知る事になる。
ただし、カマキリには共食いの習性があることを忘れてはならない。交尾後にオスがメスに食べられるのは有名であるが、もしかすると、多くの幼虫が生まれることにも共食いの意味が込められているのかもしれない。
カマキリが強面の風貌にも関わらず害虫ではなく益虫であることは、余り知られていない。肉食のため農作物に被害をおよぼさないだけでなく、アブラ虫などの害虫を捕食することで害虫駆除の役割を果たしている。
カマキリの名前の由来には、鎌で切ることからカマキリになったという説や鎌を持ったキリギリスからカマキリと名づけられたという説があるらしい。いずれにしても、他を寄せ付けない独特な個性を持っている。
さらに、どうしても付け加えなければならないのは、カマキリの異様性であろう。それは、体内にいるハリガネムシに操られて、水辺に誘導されたあげく入水させられるという狂気の沙汰としか思えない行動である。
