コラム・エッセイ
[続周南新百景](75)蒸気機関車(下松市笠戸島)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)![]()
下松市笠戸島にある国民宿舎「大城」近くの駐車場に一台の蒸気機関車が保存展示されている。型式名からデゴイチやデコイチの愛称で呼ばれていた人気のD51機関車である。
現在の静態保存されている姿からは、かって旅客列車や貨物列車をけん引していた当時の様子を想像することも難しくなったが、実際に車体に近寄ってみると全長19・5メートル、高さ約4メートル、重量86.7トンの巨体には圧倒される。
そばに取り付けられたプレートの経歴をみると、この機関車が単に人気だけではなく、山陽本線貨物用、鹿児島本線客貨用、入換用など旅客や貨物輸送、入換作業などに幅広く運用されていたことが良く分かる。
所属した区所は、広島機関区、柳井機関区、出水機関区、下関運転所、厚狭機関区の5ヶ所であった。中でも鹿児島県の出水機関区は特異といえるが、昭和45年の鹿児島本線の電化によってD51が廃止され、再び山口県に帰り下関運転所の所属となっている。
日立製作所笠戸工場で昭和15年に製作されて昭和47年の用途廃止までの32年間、多くの場所であらゆる困難を乗り越えて来た車体は、満身創痍の状態であったに違いない。
笠戸島では、早くも河津桜が咲き始めていた。寒風に揺れる薄紅色の花弁の向こうに、蒸気機関車が見えた。産まれ故郷でもあるここ下松市で、ゆっくりと余生を送っている蒸気機関車の姿はとても美しい。これからも静かに見守り続けられることを願いたい。
