2026年10月13日(火)

コラム・エッセイ

戦争の語り部

周南漫歩

 ◎きっと我々には想像もできない重い気持ちだったのだろう。14日の光市戦没者追悼式に参列していた93歳の男性に取材したが、なかなかお名前を教えてもらえなかった。

 ◎男性は光海軍工廠で働いていた徴用工。終戦前日の1945年8月14日の米軍機による工廠の空襲で動員学徒や職員など738人が犠牲になった上、工廠外の市民10人も巻き添えになった。

 ◎男性は我々報道陣に涙ぐみながら「同僚はみんな亡くなった。爆弾が落ちて人間が飛び散る様子をまざまざと見た」と当時の様子を話してくれたが「思い出すたびに涙が止まらない。自分だけこんなに長生きして…」と声を詰まらせて「名前は勘弁してほしい」という。筆者だけでなく、ほかの新聞、テレビ計7社の記者にも一様に口を閉ざすのだ。

 ◎最後は記者全員がそろって男性に頭を下げ、口々に「戦争を体験したあなたの思いを次の世代に伝えるのが我々報道機関の役目。戦争はいかん、平和こそ大切だというあなたの訴えをまっすぐに伝えたい」「どこの誰が話したのかがわからない記事では説得力がない。お名前だけでも教えてほしい」と繰り返し懇願。ようやく「あんたらに根負けした。話すよ」とフルネームを教えてくれた。

 ◎おかげで戦後75年の節目にふさわしいコメントを男性の名前を添えて紹介することができた。戦争の悲惨さを自らの体験として時代に伝えられる人が減っている。男性の一層のご健康とご長寿を願い、来年も慰霊式で再会したい。(山上)

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