コラム・エッセイ
「親不知を目指す」⑧ 「危ない、ない!」
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修思い返してみると、ドタバタの出発準備だった。食料の分配や小分け作業は夜中に数時間近くかけて行った。買って来た物をまとめてザックに押し込んでもいいのだが、都度全部を引っ張り出してかき回すことになる。狭いテント内で効率よく素早く食事や翌日の段取りをするとなると、あまりにも効率が悪い。下界の日常生活ではまず考えられないが、1日分ずつチャック付きの袋に詰め替えて、とにかくテント内の作業を簡素化しなくてはならない。それでなくても日が短い季節だ。日没後に無駄にランプを灯して電池を消耗さすのが惜しい。
他の人の行動パターンは知らないが、朝夕だけは食事のためにお湯を沸かしてお茶の一杯も飲むが、テントをたたんで歩き始めたら、ズボンのポケットやポーチに入れた行動食をポリポリと食べながら歩く。小休止で腰を下しても基本的にザックを開けてゴソゴソと行動食を探すようなことはしない。
そのためには、出発前に家でその日のコースと負荷を想像し、行動食の内容を吟味して小分けにする。予備日も含めて5日分の食料を全て事前に計画し、袋には「Day1」「Day2」…などと書いておき、山中でいかに無駄なく効率良く動けるか考えている。当然、過不足もあるが、あらかじめ分配しておけば調整作業は格段にスピーディーになる。日常の行いを知っている人は信じてくれそうもない。嘘のようだが本当のことだ。家人には全く想像もつかないだろうが…。
あと、以前から気になっていたのが、テント(ツエルト)を固定するガイライン(張り綱)の交換だ。山では時に台風並みの風が吹くこともあり、テントが飛ばされないようにしっかりと地面に固定する必要がある。教科書では地面にペグ(くい)を打てと書いてあるが、山上では満足にペグが打てるテント場なんてないし、所詮は小さなペグなのでどの程度の風に耐えられるのかも疑わしい。むしろ近くにある大きな石や、ちょっと離れたハイマツの枝などを積極的に利用するほうがはるかに安心だ。天気が荒れそうな時は大きな石が転がっている場所やハイマツの近くを探すが、以前からもうちょっとガイラインが長いと良いと思っていた。
長さを1メートルばかり延ばし、その分軽量化のために直径が1ミリ細いロープにしようと、実は数年前には購入していた。たかだか1時間もあれば終わる作業だが、きょうやろう、明日はやろうと思ってはいるのに、何だかんだと他の用事のせいにして一日延ばしになっていた。出発日の前夜、日付も替わるころになってから缶ビールを片手に既にパッキングも終わっているザックの底からテントを引っ張り出した。ほろ酔い半分。眠気が半分で、あくびをしながら何とか付け替えた。ザックに戻しながら、ランナー(自在金具)が外した側に着いたままだと気づいた。
危ない、ない!もう一度引っ張り出して付け替え完了。
朝夕だけは食事のためにお湯を沸かすが、歩き始めたらザックを開けることはない
ランナー(自在金具)が外した側に着いたままだと気づいた
