コラム・エッセイ
親不知を目指す⑪ 「困った!」
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修宿についたら荷物整理だ。出発前にザックに放り込んだ道具類を全て出す。食料関係は一晩かけて確認しながら小分けにしているので問題はないはずだ。テントのガイライン(張り綱)を交換したとき、穴が空いてないか、ファスナーが壊れてないかもチェックした。寝袋も一応は事前に拡げてみて異常なし。
問題は小物類だ。ガスコンロやヘッドランプ、ガス缶や電池類、ストックやヘルメット、ラジオ、コンパスなど棚にあるのを試運転もせずに詰め込んできた。カッパは三カ月も前に使って洗濯後に袋に入れたままで、これもとうとう袋から出さずじまいだった。
これらを詰め込むザックは容量が50㍑のもので、かれこれ20年近く使っているが問題ないはずだ。登山靴は何種類か持っているが、重荷と長時間歩行が分かっているので、軽さよりもある程度は靴底が固くしっかりしたものを出掛けに選んだ。ただ、長時間の電車移動なので道中はサンダル履きで、手提げの袋に入れてきた。
今夜の宿の夕食は午後7時半までなので、逆算して遅くても7時までには食堂に入りたい。それまでに道具類のチェックとパッキング(荷造り)は完全に済ませておきたいし、できれば風呂にも入りたい。
時計をみると5時過ぎだ。2時間もあれば余裕で風呂にも入れるだろう。一旦ザックから出した道具を全部広げてチェックを始める。山の教科書からすれば、こんなことは出発前に済ませておくもので、完全な違反というのは分かっている。
でも、まあ、他人と一緒なら迷惑をかけるかもしれないが、一人歩きなら自分のことだ。実は自販機で缶ビールを買っていた。
ちびりちびりとやりながら作業開始。コンロもランプも問題ない。ラジオも正常だ。カッパも袖を通してみるが問題ない。薬もそろっている。2つあるコンパスも正常だ。高度計は電池を先日新品に交換したばかりだ。
明日は唐松岳を越えて天狗のコルまで約8時間行動だ。行動食と明日の行動予定区間の地形図を抜き出してザックのポケットに入れた。テントや寝袋などザックの底に押込み4日分のずっしり手ごたえのある食料も入れた。
水もこの時期は山中では超貴重品となるので早々と詰め込んで終了。さて、しばらくは風呂に縁の無いむさ苦しい山上生活となる。ひと風呂浴びて娑婆の垢を落とそう。
まだ歩いたことのない明日からのコースを想像しながら風呂に浸かっていたが。そうだ。ヘルメットのチェックをしてなかった。明日のルートの後半は不帰の瞼(かえらずのけん)などと少々凄みのある呼ばれ方をする険しい岩稜の通過もあり、ヘルメットは必要不可欠だ。風呂上がりに念のため装着してみる。あれ?おかしいぞ!あご下で固定するバックルが止まらない。ベルトがねじれているのか…。
頭から下して確認。な、なんと!樹脂製のバックルが破損しているではないか。こればかりは代替がない。これは困った!困った!
2つあるコンパスも正常だ
コンロも問題ない
ヘルメットの樹脂製バックルが破損。困った!
