コラム・エッセイ
親不知を目指す⑫ 「ちょっと溜息も出るが…。」
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修山歩きにヘルメット携行というのは今の時代では常識で、例えるなら、車に乗るならシートベルトみたいなものかもしれない。もっとも低山なら必須ではないが、北アルプスなどの一般ルートでも岩稜の通過では必需品だ。
これは持論だが、何百メートルの絶壁を自分のミスで転落したのなら、もう諦めるしかない。しかし、上部からほんの小さな石ころでも落ちて頭を直撃すれば場合によっては致命傷となる。以前にも書いた気がするのだが、わざとではないだろうが、10メートルほど上の先行者が動いた時に落石を誘発し、その一部が腕に当たったことがある。
飴玉程度だったが、かなりの衝撃で、これが頭だったらとゾッとしたことがある。それでなくても不安定な場所にかろうじて立っているのに、バランスでも崩してしまえば一瞬であの世行きだ。たかが小さな石ころのために大事故というのはあまりにも悔しい。
それ以来、北アルプスなどの岩稜はもちろん、伯耆大山でもちょっと怪しいルートを歩くときは必ず持参することにしている。日頃の生活ではこれくらい大丈夫!と、無防備というよりも横着が過ぎて周りから注意されることも多いが、山歩きではなぜだか慎重になるから不思議だ。
前置きが長くなってしまったが、壊れたヘルメットのバックルに焦ってしまい、その対策を思案する。幸いなことにここ白馬村には何件かの登山用品店がある。きょうは平日でもあり店じまいも早いだろう。調べてみると19時が閉店時間だ。もう午後6時を回っていて、もう今から歩いて行って間に合わないかもしれない。それに夕食の時間も気になる。タクシーを呼んで往復するという手もあるが、玄関前に待機しているわけでもなく料金に見合う時間短縮は期待できそうもない。
まずは電話で修理できるかどうか問い合わせてみた。すると可能との答え。ホットしたが、やりとりしていたら預かってメーカーに送るので最低でも10日くらいかかるというではないか。それじゃあ意味がない。悩む間もなく、翌朝の開店を待って新品を買うことにした。
十分な準備作業を怠ったために、何ともお粗末な事態となった。でも、まあこれで今回の山行が中止になったわけではないじゃないか。むしろ山の上で壊れていることに気付くより百倍いいじゃないか。
翌朝、登山用品店の開店時間に合わせ、壊れたヘルメットを片手に宿を出る。この調子なら2時間近く時間ロスだ。本来ならすでに山の中腹を歩いているはずだ。誰を責めるわけにもいかない。ちょっと、いや実に複雑な心境だ。
一番乗りで店に入ってヘルメット売り場に直行する。店員さんのレクチャーは有難いのだが時間も気になる。松竹梅の竹にしてド派手な真っ赤なものを選び、永らく愛用の黄色いヘルメットはここで処分を依頼。
店外から望む山は厚い雲の中だ。ちょっと溜息も出るが…。さあ行こうか!
壊れたヘルメットを片手に登山用品店に向かう
松竹梅の竹にしてド派手な真っ赤なものを選んだ
店外から望む山は厚い雲の中だ
