コラム・エッセイ
親不知を目指す⑬
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修山歩きにもいろいろなスタイルがある。一つの山の山頂を目指す「ピークハント」と、稜線伝いに歩いて山頂をつなぐ、いわゆる「縦走」というのが一般的だろうか。どちらが良いとか、上等、下等などの区別はできないが、自分流は山歩きを始めたころよりなぜだか「縦走」が性に合っていて、歩いた峰々を地図に色鉛筆で線を延ばしていくのが至福で今に続く。
山を始めたころは近場の馬糞ケ岳から長野山、平家ケ岳、水ノ尾山とつなぎ、莇ケ岳から津和野まで歩いたこともある。それに飽き足らず県外にも足を運ぶようになって、気がつけばとうとう全国区になってしまった。
ただ、遠方の長大な縦走路となると往復も含めて相当の時間がかかり、何回かに分けて歩くことになる。問題は日を改めて歩くとき、続きの稜線上までどうやって登るかだ。
正統派は麓から時間をかけて歩くのだろう。しかし、今回の再スタート地店の唐松岳には幸い?なことに中腹までリフトが使える。入山口となる白馬村は日本でも屈指のスキーリゾート地だ。とりわけ八方尾根のリフトは周年営業で、標高800メートルの麓から歩かずに標高1800メートルまで上がることができる。これを使わない手はないと迷わず思うのが「のーくれ者」だ。
荷物が最大重量の初日で、1000メートル上がるとなると時間にして半日分を節約できるし、何より年寄りにとっては体力の温存効果がある。労せずして楽を選ぶことに少々の後ろめたさはあるが、ワンダーフォーゲル部の若者ならともかく、大半はこのリフトを使い同類も多数だ。
長い言い訳をした…。当初の予定では、始発の午前8時のリフトに乗れば昼ごろには唐松岳の山頂に立てると踏んでいた。その先の不帰の瞼(かえらずのけん)などと不気味な名のついた難所を越えれば日没前に余裕で一日目キャンプ予定地の天狗平に着ける。
ところが、ヘルメットを新調して登山用品店を出たのはもう10時前だ。この2時間のロスをどうしようか。今後の行程をあれこれ思案するが、よほどの冒険的な行動をとらない限りは取り戻せそうにない。
早歩きでリフト(ゴンドラ)乗り場に向かい、多くの人の列に並んで押されるようにして車中の人となる。山の上部は厚い雲の中だが、振り返れば小洒落た、いかにも観光地といったような白馬の町並みが見える。
しばらくは俗世とも距離を置く生活となるし、出鼻をくじかれた上にパッとしない天気に難行苦行の山行となる予感もする。ちょっとだけ感傷的な気分で窓外を眺める。
3つのリフトを乗り継ぎ、多くの観光客やハイカーがたむろする終点に着いた。視界はガスで数十メートルといったところで、北アルプスの絶景を期待してきた人には誠に残念な状況だ。
この時間なら一頑張りで行ける絶景スポットの八方池までの往復組か、唐松岳の小屋泊まりの人達だろう。でも、彼らと同じペースでは歩けない。何とか遅れを取り戻せないかと急ぎ出発する。
振り返れば小洒落たいかにも観光地といったような白馬の町並みが見える
多くの観光客やハイカーがたむろする終点=視界はガスで数十㍍といったところだ
