2026年06月19日(金)

コラム・エッセイ

親不知を目指す㉖ 「やっぱり一人が良い」

おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修

 白馬岳は花の山としても有名だ。「花の百名山」というのがある。折からの深田百名山ブームに乗じたわけでもないだろうが、山好きな作家として有名な田中澄江の同名随筆が大当たりした。その勢いからか、NHKで「花の百名山」シリーズが放送されて以来、登山者の層が変わった。白馬岳もその一座に名を連ねている。

 山を歩くのは大好きだが、花には無頓着というか、花をめでることを目的にして出かけることはほとんどない。でも忌み嫌っているわけではない。要するに感性の問題だ。昔は何度も高山植物の名前を覚えようと格闘したが、しょせん興味が無いものに力は入らず、頭の悪さもあって、チングルマやコマクサ、ウスユキソウといった超有名なものくらいは見分けがつくようになったが、他は全てミヤマ…でひとくくりとなり、結局は投げた。それでも名前はわからないにせよ、山上に広がる百花繚乱のお花畑に息をのむことがある。

 その白馬岳も9月も下旬ともなれば花の盛りはとうに過ぎ、特に砂れき地に咲く花はほとんど地面に同化しているが、緑の草原状に広がる斜面ではまだまだ花の名残はある。白馬岳の山頂から1時間半ばかり歩くと、鉢ヶ岳の東斜面を巻くルートとなるが、上空の青空と一面に広がるハイマツ帯が緑のじゅうたんとなる。その隙間に咲くオレンジや黄色の花が鮮やかに目に飛び込む。花の名前を書くと恥を晒すことになるので控えるが、鮮やかなオレンジ色の花はユリの仲間だろうか。振り返ると越えてきた白馬の頂から穏やかに続く稜線に、鮮やかな花達がアクセントになりしばし見惚れる。

 さらに進むと足元は綿毛となったチングルマの大草原となった。その中に黄色の花が咲き誇るというより、最後の力を振り絞るようにしてこれまた鮮やかに目に飛び込む。しばらくすると紫の花の群落に出会う。この花の名前はなんというのだろうか?それにしても、この近辺は盛夏の頃ともなれば素晴らしいお花畑となるのだろう。

 花の百名山花の写真など滅多に撮ることはないが、今回ばかりは何度もシャッターを押した。実は「花の百名山」は立ち読みでパラパラとめくった程度で、選定の理由までは知らないが、白馬岳はもちろん周辺の山も含めて花の山として認めても良いと思う。

 ところで、白馬岳の山頂では数十人の中のひとりだったが、北に向けて歩き出してから誰にも出会っていない。この先にも、振り返っても人の姿、気配が無い。上空は澄み切った青空で穏やかだ。下界は相変わらず見渡す限りの雲海の下で、高度2千メートル以上が晴れている状態だ。言うならば、この瞬間目に入るすべてのものを独り占めしているようなものだ。花の時期の週末ともなれば山小屋もテント場は大混雑で、登山道は人が列をなすという。

 花の時期は過ぎても、やっぱり山歩きは一人が良い。

越えてきた白馬の頂から穏やかに続く稜線=鮮やかな花達がアクセントになりしばし見ほれる

足元は綿毛となったチングルマの大草原となった

上空は澄み切った青空だが、下界は相変わらず見渡す限りの雲海の下だ

紫のこの花の名前はなんでしょう?

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