コラム・エッセイ
親不知を目指す㉘「山小屋はありがたい」
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修テントを担いでの山歩きは、時間を気にすることなく、マイペースで行動できるので大好きだ。半面、歩き終えてからの雑多な仕事と、雨降りではどこからともなく浸水して全てが湿っぽくなって不快極まりない上に、翌朝の片付けも正直なところ気が重い。
何より、外界と隔てているのは布切れ一枚だけで、荒天時には、風雨がバタバタとテントをたたき、フレームが大きくしなる。もしこの状態でテントがつぶれたら…破れたら…と、眠れぬまま夜明かしすることもある。
そんな荒天下では山小屋の存在はありがたい。特に有人の営業小屋は寝床と3食が保証されて“食住”に関して心配無用だ。ただ、料金は下界の旅館なみで、長期山行ではかなりの出費となる。それでも、山小屋を前提に計画すれば、持ち物は“衣”だけで済むので、長期の山行でも軽量化と荒天時の安心度は格段に高くなる。
もっとも個々人の考え方ではあるが、山歩きなど自分の体力や予測不能な環境下での駆け引きだと思えば邪道だし、安全、快適を求めれば正論となる。
昨日、鑓(やり)温泉分岐で情報交換した人から朝日小屋は良い。と勧められてちょっと気が変った。位置的には縦走ルートから1時間ばかり脇道にそれるので、一途に親不知を目指すには往復で2時間のロスにはなる。しかし、栂海(つがみ)新道を歩く際の最後に情報収集ができる場でもあるし…などと言い訳も頭をよぎる。
ところで山小屋は緊急避難施設としての役割もあるので、泊まるのに予約など本来は不要のはずだが、最近は事前予約を求める山小屋が増えている。
閑散期は別としてシーズン中の週末などキャパシティーを大きく超えて、泊まるほうも、受け入れるほうも大混乱だ。それこそ過剰な“密”を避けるために事前の人数調整をしている。
この時期の登山者は少なく、天気も悪かったので混雑はあり得ないが、前日夕方に朝日小屋に予約連絡してみた。返った答えは「本当に来ます?最近は来ると予約してドタキャンが多いんですよ…」さらに「来るなら早朝に出て、午後1時半までに来て下さいね」と念を押された。
確かに白馬から6時間以上はかかるし、途中に雪倉の避難小屋はあっても他のサポートは期待できないが、特に難路でもないし、極端なアップダウンもないルートだが…。
小屋の手前の朝日岳山頂には昼前に着いた。振り返れば白馬岳から続く山並みが遠望できる。目を北に転ずれば北アルプス最北端の山々が続くが、標高2,000メートル以下は厚い雲海の下で、残念ながらその全容と日本海を望むことができなかったが、明日はいよいよこの先の栂海新道を歩くのかと期待感でワクワクだ。
山頂で360度の大展望を堪能しながら小一時間の時間調整をして、朝日小屋にはきっちり1時半に着いた。テントが1張りだけ見える。人の姿は見えない。

振り返れば白馬岳から続く山並みが遠望できる

標高2,000メートル以下は厚い雲海の下で、栂海新道の全容と日本海を望むことが出来なかった

朝日小屋にはきっちり1時半に着いた。テントが1張りだけ見える
