コラム・エッセイ
祖母〜傾山縦走記㉜ 《安心安全な天然水?》
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修山での水のことを少し。日帰りの山歩きならともかく、山中で何泊かする縦走となるといかに水を確保するかが問題となる。数日分を始めから背負って歩けばよいが、1日に最低でも3リットル以上は必要なので3日分なら10キロを超える。荷が重ければさらに負荷がかかるので汗も余計にかいて水も早く減る。だから更に水の量を増やすという負のスパイラルにおちいる。よって現実的なのはせいぜい2日分といったところだろうか。
縦走は基本的に尾根の上をつないで歩くので、水場は余程の条件に恵まれなければコース上にはないと思ったほうがよい。特に森林限界を越える北アルプスなどでは山そのものに保水力がないので、残雪の消える夏以降ではまず水は入手できない。あったとしても水たまり程度か、流れがあるにしても細くて枯れていることも多い。営業している山小屋があれば天水(雨水)を1リットルあたり数百円で買うか、延々と急傾斜の沢を下って水場を探し、また登り返さなくてはならない。でも、雪山なら燃料さえあれば雪を融かしていくらでも水を得ることが出来るので、ある意味で安心?な面もあるが…。
さて、この縦走路は野性動物による採食により樹木が枯れ始めてはいるが、山腹などはまだまだ豊かな緑を残す。ここ尾平越のように前後の山が数百メートルもあるような鞍部となれば相対的に低地なので水が湧き出しても不思議ではない。100%取水できる保証はないがありがたい。何より無料で制限なしで使えるのが良い。それに周囲には人家はもとより農地など人が活動する人工物が無いので、汚水や有害な物質などが流入する心配がない安心安全な天然水だ。
そんな水をたらふく飲んだ後にペットボトルにも満たし、太陽に透かせてみたところ薄っすらと黄みがかっているじゃあないか。「エっ!」と思わず声が出た。この黄色の正体はいったい何だろう。
人は予想外の出来事が起こった時に都合の良い解釈をするという。まず昨日は雨が降ったので湧き水とはいえ多少は土が流れ込んで濁ったんだろうという理由付けだ。昔は山間部の私設水道など沈殿槽だけで高度なろ過装置もない簡易なものだった。降雨後は配管に土砂が混入するなど日常で気にもならなかった。だからこの水も心配には及ばない…。そう思いたかった。
反面、この近辺は明らかに人間の数よりシカやカモシカの方が多いという現実に、ひょっとして彼らの排泄物が混じっているのではないかという不安もよぎる。煮沸すれば心配はなかろうが何せ生水だ。でも今更だ。今晩あたりからお腹の調子が悪くなるのではないか。最悪の場合は何かの感染症で重篤な症状が出て身動きが取れなくなるのではなかろうか。いやいや大丈夫。ここの水場で健康を害したという話なんか聞いたことないじゃないか…。

北アルプスなどは山そのものに保水力がな く夏以降ではまず水は入手できない

安心安全な天然水のはずだが…
