2025年11月09日(日)

コラム・エッセイ

祖母〜傾山縦走記㊳ 《だから山歩きは面白い》

おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修

 九折の避難小屋を出て1時間半ほどで大きな岩が積み重なる狭い尾根上に傾山頂の標識があった。長かった祖母山からの縦走も完遂し、感激の一瞬を迎え感涙にむせぶ。はずだったが、濃いガスに包まれて歩いてきた長大な縦走路を見渡すような展望はおろか、目の前の10メートル先さえ見えない状況となれば、どうも達成感というよりも、これから先も下りとはいえ、初めてのルートということもあり緊張感のほうが大きいのが正直なところだ。

 荷物を放り出してエネルギー補給をしながらこの先のルートを確認する。岩峰の尾根通しか、山腹の谷を巻くルートの二つがある。晴れていればスリルはあっても尾根ルートも良いが、何せ視界がない。谷ルートは水場コースとも呼ばれているようで、飲み水は豊富に入手できそうだ。よし、節水生活から解放されるこの水場ルートを下ろう。

 先に結論から言おう、この水場コースはなかなか手強いルートだった。ところにもよるが、わずかに踏み跡があってもはっきりした“道”らしきものがない。谷歩きの基本は地形図を片手に左右から入ってくる谷地形を数えながら自分の位置を特定するが、視界がきかないなかでは周囲の様子を把握できない。踏み跡が怪しくなってくると目を凝らして何かそれらしき痕跡はないかと探す。

 時には後戻りをして手がかりをもとめるが何も見つけられずに焦る。時折ガスが薄くなった時に小さなケルン(石を積んだ目印)や枝先に赤テープがついているのを見つけては進む。かつてはしっかりした道もあったのだろうが、大雨で流されたり崩落したりで途切れているところが多い。

 このルートの基本は1,250メートル付近の山腹を巻くようについているのだが、視界がないので横切る谷の大きさがつかめず地形図上で特定するのが難しい。もちろん読図の練度が不足しているからだが、なんとも緊張感にあふれるひと時だった。

 尾根通しのルートと合流し、後は深い樹林の中をひたすら下って車道に出るだけだが、その間に頭の中では「もしルートを完全にロストしたら相当に焦るだろなあ…」「ビバークするとしたら水はともかく食料は予備しかないし…」などと考えていたことを白状する。こんな時はザックのGPSを出せば大いに参考になるかもしれない。でも、あえて出さない。

 最後の最後でこんなスリリングな展開になるとは思わなかった。やはり油断があったのだろう。だから山歩きは面白く、次への課題として夢が持てるのかもしれない。

 いささかまとめとしては舌足らずとなったが、長くなってしまった「祖母〜傾山縦走記」もこれで筆を置こう。まあ、年寄りの戯れ言としてご容赦下さい。

傾山山頂=感激の一瞬を迎え感涙にむせ ぶ。はずだったが…

水場コースはなかなか手強い=だから山歩 きは面白い

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