コラム・エッセイ
今年の正月登山2020⑤
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修のんきに正月登山のことを書いてきたが、壁のカレンダーを見上げればもう3月だ。朝晩は氷点下の日もあったが、大した積雪もなくとうとう“真冬〟らしさを感じないまま春を迎えた。外を見渡すと梅の花も散り始めているではないか。この辺りでは梅の花は3月の卒業式。桜が4月の入学式ころに咲くというのが昔からのイメージだったけど…。
話が少しそれるが、槍ヶ岳や笠ヶ岳、烏帽子岳などは山の形状から命名されていることに納得するが、白馬(しろうま)岳や爺(じい)ヶ岳などは農事暦に連動した山名だという。「しろうま」は「代かき馬」が語源で、春に山の雪解けが進み、山腹に「代かき馬」の雪形が現れる。里ではこの雪形を見て作業の段取りをしたという。同じく爺ヶ岳に現れるのは「種まき爺」で、やはり農作業の目安とされてきたことは有名だ。
昔、近所の年寄りが「白菜の種を蒔くのはのお…」「こうこ(沢庵)大根は…」と種まきのタイミングなどをよく教えてくれた。周囲もそんな基準で作業していたし、確かにその時期を逸すると出来が悪い。ところが昨今はそんな伝承のようなものは全く通用しなくなってしまった。何十年いや何百年かけて生活に染みついた季節感が音を立てて崩れ始めている。
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ぼちぼち今年の初登山の話は置こう。決して若くはない同行してくれたメンバーの姿から、年齢に関わらず新しいことに挑戦しようとするパワーと勇気のお裾分けをもらった。年々(日々)体力、気力の劣化を実感する昨今だが、年頭に彼らに負けじとこの一年を過ごそうと思えたことは大収穫だ。
もう一つ思いがけない出来事もあった。公立学校の教員を辞して山の世界に飛び込んだA君との再会だ。親子ほども歳は離れているが、よく一緒に山を歩いた(歩いてくれた)。やはりここ伯耆大山が縁をとりもってくれた山の友人だが、頂上避難小屋でばったり出会ったことだ。
数年前に後立山を縦走した際、彼が働いていた三俣山荘を訪れたことを以前この紙面で書いたが、現在は南アルプスの鳳凰小屋で働いている。毎年の年賀状にはぜひ鳳凰小屋で再会をと書いてくれていた。今年はそれを実現さすことも夢の一つにしていた矢先でもあり、予期せぬ再会は感激のひと時だった。彼は現地の友人を伯耆大山に案内していたようで、お互いに同行者がいる身で長話はできなかったが、近況やお互いの夢など熱く語りあえた。下山する際にも何度かルート上で合流し「今年こそは鳳凰で再会を」と誓った。
常識からすれば、こんな年寄りを本気で相手にしてくれると思ってはいけないのかもしれないが、それでも山はこんな出会いもつくってくれるんだなあと、ちょっと幸せな気にもなった。やっぱり山はいい。

爺ヶ岳に現れる雪形「種まき爺」=やはり 農作業の目安とされてきたことは有名だ

A君に頂上避難小屋でばったり出会った。 予期せぬ再会に感激
