コラム・エッセイ
親不知を目指す㉒ 「きょうの行動は終了!」
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修本降りの雨とガスで視界もほとんどきかず、落ちたらケガでは済まない不帰の瞼の岩稜を誰にも出会うことなく歩いた。(もっとも落ちても誰も見ていないので当分の間は大事にならないだろうが)こんな天気ではさすがに喜んで歩く人は少ないだろう。でも、一人歩き大好き人間にとってはラッキーだった。
対人恐怖症というわけではないが、山で人に会うのはあまり好きではない。特に北アルプスの上高地から穂高岳方面に至るルートでは、紅葉シーズン最盛期の週末となると、まるで都会の雑踏にも匹敵する大行列に身を置くことがある。
この辺りは国立公園内で、国民の共有財産なので一定のルールさえ守れば誰が入っても全く問題ないが、狭い登山道を順番待ちで歩くような事態となれば本当に残念に思う。
登山者の中には人が多いと安心するとか、道を間違えるかもしれないので人の後を着いていく。というのを聞く。それが良いとか悪いとかは言えないが、せっかく俗世を離れて山という大自然の懐に飛び込もうというのに、終始人の姿が視界にあるのは勘弁だ。
人は人。自分は自分なんだから景色の一部くらいに思えばよいのだろうが、煩悩に手足をつけているだけの俗人では、何かと頭の中を去来するものがある。自分の姿や格好などはどう思われても構わないが、人を抜いても、道を譲って抜かれてもそこにはいくばくかの感情が入る。
岩稜を通過中に難儀をしている人を見ると、ついお節介で「右足をもうちょっと上にして…」と、偉そうなことを言うことがある。まだ昼過ぎだというのに「きょうの行動は終了!」というのを聞くと「もうちょっと歩かんと…」などと頭の片隅で要らぬことを思ったりもする。話があらぬ方向に飛んで行った。
◇
鑓温泉分岐で出会った登山者から聞いた話では、朝日小屋のアットホームな雰囲気がとても良いので一泊するのがお勧めとのことだった。半日分の遅れが出ているので何とか帳尻合わせをしたいが、当初の予備日を入れて山中4泊なら、今日は白馬泊。あす朝日小屋泊にしたとしても、4泊目を当初予定の栂海山荘を越えて次の避難小屋、白鳥小屋まで歩けば午前中に親不知に下れる。何より朝日小屋では道の状態や水場の最新情報が得られるというのだ。
そうと決めたら急ぐ必要がない。このペースで歩けばそれこそ昼過ぎに「きょうの行動は終了!」となる。白馬(しろうま)三山に数えられえる鑓(やり)ケ岳。杓子岳と200メートルほどのアップダウンを繰り返していると次第にガスも薄くなった。
稜線の東側(長野県側)は険しい崖だが、西側(富山県側)はなだらかな広々としたカール状の非対称の地形だとわかる。道端にザックを降ろし、刻刻と変わる風景を楽しもう。盛りは過ぎているが花の名残が愛らしい。
ここで荷物を降ろして本格的な情報交換
稜線の東側(長野県側)は険しい崖
ガスが切れた:稜線の東側と西側が非対称の地形だとわかる
