2026年06月19日(金)

コラム・エッセイ

祖母~傾山縦走記㉛ 《シカやカモシカに罪はない》

おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修

 祖母傾山縦走路のほぼ中間点となる尾平越だが、やはり鹿などによる採食で草地化が著しい。スズタケや小灌木はとうに枯死して分解してしまったのか、今立っているのは大径木だけだ。しかも表皮をむしり食われてしまったのか、既に枯れているものや、かろうじて枝葉を付けている瀕死のものも目にする。

 先ほどまで視界がせいぜい数十メートルだったが、ガスが上がると草地に樹木が疎らに立っているだけの随分と見通しが良い稜線になっていることに驚く。野生動物たちとの関わりの顛末が気にならない人がこの光景を目の当たりにすると、明るく開けた爽快な尾根の縦走路だと感じるかもしれない。

 よく見ると草が表土をかろうじて覆っていても、所によっては裸地可が進んで浸食が始まっているではないか。かつては豊かな天然の森だったのだろうが、このまま野生動物の採食が続けば更に裸地化が進行し、表土の流出そして風雨による大規模な浸食で草木の無い岩や石ころだけの殺風景な山になるかもしれない。

 水場の看板の先も立派な鉄製の柵で一部が囲ってあり、植生が復活し始めているのを目にする。しかし、どうも場当たり的な対症療法にしか思えない。無いよりはあった方が良いのだろうが、全山をぐるりと囲むくらいの規模でない限り柵の外側はいずれ大規模な浸食が起こるだろう。

 狩猟をする人が減り野生動物の適正数を超えているのが一因とも言われるし、昔は林業なども盛んで常に山に人の気配があり、野生動物の棲める範囲も限られていたという人もいる。さらには温暖化により雪の量が減り、高い山でも餌を求め易くなり活動域がさらに拡がり繁殖しやすくなったとも聞いた。

 昨今は雨の降り方が過激になっている。下界でも森林の荒廃により下層木が絶えて山の保水力が低下し、大雨による土砂災害多発を危惧する声が多い。ましてや標高が高く厳しい環境下では一度失われた表土の再生など望めない。この先何十年か後にはこの縦走路も北アルプスの穂高のように草木のない荒々しい岩稜になるのではないかと本気で考えてしまった。でも何にしてもここにいるシカやカモシカに罪はないのは確かだ。

 柵の扉を開けて水場に続く踏み跡を辿る。小さな流れに差してあるパイプから勢いよく水が流れていた。手ですくってみると手がかじかむほど冷たくはないがたまり水のようにぬるくもない。でも有難い。存分に顔を洗って喉も潤わした。首にかけていたタオルもきれいになった。あ~さっぱりした。

 ザックの中にはまだ十分に水はあるが、サイドポケットのペットボトルには補充しておこう。残りの水を捨てて一杯に満たす。何気なく日に透かせてみた。流水では気付かなかったが、なんと薄っすらと黄みがかかっているではないか。

尾平越も草地化が著しい。残っている木は枯 れているものや、瀕死のものが多い

水場の看板の先も立派な鉄製の柵で囲ってあり植生が復活 し始めているのを目にしたが…。

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