2025年11月09日(日)

コラム・エッセイ

「親不知を目指す」① 山族野郎の青春

おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修

 手元に「山族野郎の青春〜北アルプスに道を拓く」(小野健 著1971年初版)という本がある。著者小野健氏が率いる「さわがに山岳会」が、北アルプス主脈最北部に10年の歳月をかけて総延長27キロに及ぶ縦走路を伐開し、3,000メートルの雲上の峰から海抜0メートルの日本海の親不知海岸まで“栂海(つがみ)新道〟としてつなげるという、正に彼らの汗と青春の軌跡を描いた物語でもある。

 1971年というと、かれこれ半世紀前ということになるが、当時はオイルショック前夜の高度経済成長期の真っ只中で、多くの国民が海へ山へと向かうレジャーブームで、何度目かの登山ブームに世間が沸いていた時代でもある。

 そのころ親類縁者に山を歩く者がいたこともあり、感化されて山に目覚め、ようやく山歩きの面白さ、奥深さを感じ始めていたころだ。「山族野郎の青春」はそんな時に出会った1冊だ。自分で言うのも何だが、感受性豊かな10代の頃だけに随分と影響力はあった。人生を左右するなどという大袈裟な衝撃ではないものの、半世紀が経った今日まで心の片隅で読了当時の熱い感動の灯が燃え続けているのは確かだ。

 今から10年前の2010年に小野健氏が「栂海新道を拓く〜夢の縦走路にかけた青春」を上梓した。「山族野郎の青春」を全面的に改稿し、その後の栂海新道の変遷を辿ったものだ。出版後すぐさま購入し、時を忘れて一気に読み上げた。

 帯にも紹介してあるが、栂海新道を伐開するという、10年にも及ぶ一大プロジェクト?を公の力も金も注入されず、民(個)の情熱で完遂させた原動力を端的にうかがい知ることができる一文を本から一部拝借しよう。

 「未開の山稜に、自分達の手で岩盤を削り、木を伐り、藪を刈って登山道を開設しよう。山小屋も建てよう。そして海水パンツをザックの片隅に忍ばせて、高嶺のお花畑から日本海まで縦走してドボンと海に飛び込むのだ。アルプス縦走の果てに日本海で海水浴をして帰るというユニークなコース。単純な我々はそんな夢にワクワクした…」こんな心意気がいいじゃないですか。

 半世紀前の熱い感動を再び味わうことになり、いつかは栂海新道を自分の足で歩き通してみたい。伐開当時の数々のエピソードも机上で夢想するだけでなく、現地に立って彼らと同じ高さの目線で眺めながら感じてみたい。縦走の最後は海水パンツはさておき、海抜0メートルまで下って日本海の海水にタッチしたらさぞかし感慨深いだろうなあ…。

 いつのころからだろうか、3Kだ4Kだと、力仕事汚れ仕事を忌み嫌い、日本中の皆が小綺麗な恰好をし、グローバル化と称してそんな仕事は途上国でやらせればいいんだと。気がつけばマスクも餃子もネジも船や飛行機で運んで当たり前。使い終えたゴミも船に乗せて押し返して見なかったことにする。いつの間にかそれが当たり前になっている。今一度、自分を見つめ直す転機ともなる。

山賊野郎の青春=半世紀が経っても熱い感動の灯が燃え続けている

栂海新道を拓く=時を忘れて一気に読み上げた

日本海親不知=「日本海の海水にタッチしたらさぞ かし感慨深いだろうなあ…」

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