コラム・エッセイ
親不知を目指す⑳ 「汗が流れる」
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修雨の唐松岳山頂の視界はほんの10メートルほど。カッパのフードをバチバチと雨がたたく。本降りの雨の中を歩くのは気が進まない。もし、これが登山口での状況なら間違いなく回れ右をするだろう。雨降りでは景色がよく見えないというのもあるが、何よりも、いくら透湿素材のうん万円の最新式のカッパを着たとしても、登山という大荷物を背負った高負荷の活動をするかぎり、内側が蒸れてくるのが不快だ。
ものの本の「内側の蒸れを防ぐためには体温が上がらないようにできるだけゆっくりと無理をしない活動するとよい」などと少々人を小ばかにしたような解説を読んだのを思い出した。たしかに、そろり、そろりと牛歩のごとく登れば汗もかかないかもしれないが、それではいくらも進めない。やっぱり山はふうふうと肩で息をし、汗を拭きながら登るのがよい。
結果、カッパの内側は高温になり、汗で湿りはじめやがて流れる。とはいえ、雨の中をいったん歩き始めたなら、活動量は変えたくない。雨が降ったから予定の半分しか歩けなかったという言い訳にはしたくない。
唐松岳から先に不帰の瞼(かえらずのけん)という岩稜の難所がある。名前からして危なげで、いかにも過去に何人もの命を奪い、帰ることのできない人を製造した場所だと自負しているようにもある。確かに、ここでの転滑落の事故は多く、足がすくんで身動きが取れなくなったというのも聞く。
そんなところをよりにもよって雨の日に歩くという決断をした。もちろん足を踏み入れるのは初めてで、これが勇気ある決断となるのか、無謀な挑戦だったとなるのかは結果次第だ。とは言え、一応は難所にハシゴや鎖が整備されているので、ルートを外さない限り、手を離さない限り、足を滑らせない限りは大丈夫だろう。
結論から言おう。確かに雨で岩の上においた登山靴は滑りやすかったし、握ったハシゴや鎖も濡れてズルズルだった。靴幅もないような足掛かりをバランズ芸で通過する箇所や垂直に近い絶壁もあった。いったいどこを通ればいいのか?と一瞬戸惑うゴジラの背ビレのようなところもあっって、緊張の連続だったことは確かだ。
ただ、救い?は視界がないので高度感というのが全く無い。良くて数10メートル。時には10メートルを切る濃いガスに包まれていた。だから切れ落ちた岩場においた足裏の先が数百メートルの絶壁だったとしても、見えないのだから恐ろしくはない。難なく通過といえば嘘になるが、恐怖感というものは全く無かった。
気が付けば、不帰のキレットと呼ばれる最低鞍部まで来ていた。核心部はここまでで、あとは天狗の大下り(登るので大登りになる)を一気に300メートル登れば難所も終わりだ。雨脚はますます強くなり、足元を降った雨が流れる。急坂に息も上がり、カッパの中も汗が流れる。
雨で岩の上においた登山靴は滑りやい
いったいどこを通ればいいの か?まるでゴジラの背
下が見えないのだから恐ろしく はない
