コラム・エッセイ
親不知を目指す⑲「やっぱり叱られそうだ」
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修装備を最小限にした山歩きでは不便、不快などは覚悟というか、承知の上なので節約と耐乏が基本となる。
食事はお湯を入れたら出来上がりなので面倒ではないが、必要以上にお湯を沸かすのは水と燃料と時間の無駄となる。鍋(食器兼用)には目盛りがついていて、きっちりと計量する。ちなみにアルファ米のご飯は160㏄のお湯を注いで20分待つが、フリーズドライのおかずはお湯を入れて1分待てばよい。ということは、おかずのお湯は食べる直前に沸かせばよい。この20分の待ち時間で翌日の行動食の準備や地図の差し替え作業ができる。とにかく日没までに可能な限りの準備作業をしておく。
暗くなってヘッドランプの灯りで作業するのはもったいない。LEDになって格段に電池の持ちは良くなったが、予備の電池は1回分で、アクシデントで夜間行動用に温存しておく必要がある。
食器は一つしかないので使い方も考える。アルファ米は袋のままで食べる。おかずは食器に入れるのでお茶は後からだ。食後のお茶は嗜好というよりも、食器洗いが目的で、一杯のお茶を食器のふちまで回すように揺らし、わずかな食べ残しも溶かすようにして飲み干す。
ラジオは天気予報を聞くのが主目的で、優雅に音楽を聴きながら夜ふかしなどできない。スマホも持参しているが、夕方に一回だけ電源を入れてメールのチェックと天気の確認をして電源を落とす。寝酒も欲しいが夜長では切りがない。きっちりと等分して我慢だ。後は寝袋に潜り込んで眠るしかない。
戦中、戦後の物が無い時代をやり繰りした年寄りから「物を粗末にするな」「もったいないことをするな」「目がつぶれる」挙句は「地獄に落ちる」などと、半ば脅迫めいた小言を言われていた。あの世からこの節約生活を眺めて褒めてくれるだろか?…。いや「仕事もせんと山で遊び回りよったら目がつぶれる!」と、やっぱり叱られそうだ。
真夜中にパチパチとテントをたたく雨音で目が覚める。夜半から昼前まで天気が崩れるという予報に覚悟はしていたが…好天を祈りながら二度寝。
夜が明けたが雨は全く止む気配はない。きょうの予定は不帰の瞼を越え、白馬岳を踏んで雪倉の小屋まで、ざっと10時間の予定だ。あまりのんびりできない。雨脚は強まるばかりでちゅうちょする。ベンチレーター(換気口)から外の様子をうかがうが一向に弱まる気配がない。
7時を回った。ちょっとおっくうだが、ここで1日停滞したら予備日を使っても親不知には着けない。大急ぎでテントをたたんで出発だ。テントサイトのすぐ近くで、荒天時に出てくるという雷鳥が見送ってくれた。
昨日は大展望に大感激した唐松岳の山頂に再び立った。視界は10メートルもない。
必要以上にお湯を沸かすのは水と燃料と時間の無駄となる:きっちりと計量する
ベンチレーターから外の様子をうかがう:雨は一向に弱まる 気配がない
荒天時に出てくるという雷鳥が見送っ てくれた
唐松岳の山頂に再び立った。視界は 10 メートルもない
