2025年11月09日(日)

コラム・エッセイ

親不知を目指す⑯ 「これは素晴らしい!」

おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修

 多くの人が訪れる八方池の標高は2千メートルでリフトを降りて200メートル登ったことになる。ここを過ぎると次の目標は唐松岳(2,696メートル)で、後700メートル登らなくてはならない。体はかなり登山モードになってきたとはいえ、勾配はだんだんと急になって相変わらず苦しい。

 ただ、一歩ごとに確実に高度が上がるのも確かで、腕につけている高度計の数値が面白いように上がっていく。

 歩き出して1時間半たった。頑張れば遅れを取り戻せるかもと、歩きながらポリポリと行動食を食べ、水分補給もしたが、腰を下ろしての大休止はしていない。高度的には半分きたが、さらにその先にも進むとなると残りの体力との駆け引きもある。まだ余力はあるが、ちょうど昼時だし一休みしよう。

 登山道から少し外れ、万年雪の残る扇雪渓に立ち寄りザックを下ろす。温暖化のせいで規模はだんだん小さくなっているらしいが、それでも山上とはいえ夏の猛暑を乗り切って秋まで消えずにいることに感心するし、「よく耐えた!」と賛辞を贈りたい。

 極地の氷山や氷床が加速度的に減少するという話を聞くが、この万年雪もいずれは消滅するのだろうか。まさか来年にはなくなって今回が見納めとはならないだろうが、自分の歳と体を考えれば、次に訪れるチャンスなど余程意識して作らない限りその可能性もある。かたわらの大岩に腰を下ろしてちょっと感傷的に眺める。

 標高を上げるとさらに明るくなってきた。上空のガスがサーッと流れて一瞬青空がのぞく時もある。どうやら山の中腹あたりから主稜線直下だけに雲がかかっているようで、もうひと頑張りすれば雲の上に出られそうだ。

 歩き始めのころ、下ってくる人の中にはカッパを着た人もいた。早い時間には上部で雨が降っていたのかもしれない。その意味では出発が遅れたことは良かったかも…。

 午後1時過ぎ。大汗をかいて主稜線に上がった。この南北に延びる長大な稜線は長野県と富山県との県境でもあり、北アルプスの主脈でもある。南は穂高岳に続き、北はいよいよこれから歩く栂海新道を通って日本海に至る。5年前にここから一週間かけて南に向けて歩いた。その記憶も懐かしく蘇ってくる。

 ここには立派な山小屋が建ち、テント場もある。のんびり八方尾根を登ればほどよく1日コースでここに泊まる人も多い。しかし、まだ行動できる時間は残っている。何とか先に進みたい。唐松岳の山頂はここから標高差で100メートルほど。ひと頑張りなので荷物を背負ったまま立ち止まらない。

 唐松岳の山頂には先客が一人だけいたが、ほどなく貸し切り状態となった。ほぼ360度が見渡せる大展望を独り占めだ。南には雲に隠れていた五竜岳が大きく姿を現した、これから歩く白馬方向は、ガスの隙間から「不帰の嶮」と呼ばれる荒々しい岩稜が見え隠れする。

 しばらくすると遠く雲海の先に天を刺すような剱岳も見えだした。これは素晴らしい。

扇雪渓:猛暑を乗り切って秋まで消えずにいる「よく耐えた!」と賛辞を贈りたい

大汗をかいて主稜線に上がった。長野県と富 山県との県境でもあり、北アルプスの主脈で もある

遠く雲海の先に天を鋭く刺すような剱岳も見える

唐松岳から白馬方向:ガスの隙間から「不帰の嶮」と呼ばれる荒々しい岩稜が見え隠れする

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