2025年09月16日(火)

コラム・エッセイ

祖母~傾山縦走記㉗《今にも霧の中から…》

おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修

 何度か同じ山を歩いていると、年月が経つと随分と様子が変わっていることに驚くことがある。人気の山では大勢が歩くことによって登山道の植生が無くなり、表土が流出して溝となる。雨水がさらに土をえぐり取り、樹木の根が露出したり基岩や石が現れる。歩きにくいのでその脇を歩いてさらに表土の流出と浸食が進み、とうとう谷地形になったところもある。山頂でも多くの人が歩き回って植生が失われて表土が流され、埋めてある三角点の標柱が基台ごと完全に露出して倒れ、誰かが小石を詰めてかろうじて立っているのも見る。これらは明らかに登山者によるオーバーユースによるものだ。

 ここ祖母山系ではかつては名物でもあった登山道の両側から覆いかぶさるように密生するスズタケ(笹)が消えた。人の背丈ほどもある笹なので雨後や朝露で葉が濡れているところをかき分けて歩いていると全身がびしょ濡れになったし何より見通がきかないという個性のある山でもあった。登山道のスズタケを一時的に刈り払っても翌年にはまた元の藪に戻るという繰り返しがあったのだろう。過去には風の便りで今年は刈り払いが追い付かずに歩くのに難渋するというのも聞いたことがある。以前歩いた時も刈り倒されたところと、作業が追い付かないのか猛烈な笹ヤブを漕がなくてはならない部分があったことを思い出した。

 ところが10年も経たぬ間にあれほど密生していたスズタケがことごとく倒れている。数メートル先の見通しが利かなかった縦走路が別の場所かと思うほど見通せて随分と雰囲気が変わっている。人力で刈り払うのならせいぜい道の両脇1メートル程だろうが、ほぼ見通せる先まで倒れているということは、やはりシカなどの野生動物の採食によるものだろう。さらに多くの立木までも樹皮をむしり食われて無残にも枯れて倒れているではないか。

 これも自然の遷移の途中経過に過ぎないのかもしれないし、人があれこれ言うべき現象ではないのかもしれないが、あまりにもその変化のスピードが速いことに戸惑う。専門家ではないので的外れかもしれないが、世にいう生態系への影響が心配でもある。光を求めて背の高い木もあれば、日陰を好む下層の植物もあるだろうし、その環境でしか生きられない動物や昆虫も多様に暮らしていたはずだ。しかし、わずかな期間で草原化または裸地化、または馬酔木のみの群落となれば、おのずと暮らしていた生き物は追われることになる。

 霧雨が降りガスでせいぜい数十メートルの視界。陽も差さず木々が無残に倒れた少々不気味なモノトーンの世界だ。その様を形容するのは難しいが、例えて言うならば昔見た外国のホラー映画の一場面のようでもある。今にも霧の中から怪物が追いかけてくるような雰囲気とでもいおうか…。

誰かが小石を詰めてかろうじて立っている三角点標柱=登山者によるオーバーユースによるものだ

今にも霧の中から怪物が追いかけてくるような雰囲気とでもいおうか…

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