コラム・エッセイ
祖母~傾山縦走記㉔ 《一挙手一投足を考える》
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修夜半に屋根をたたく雨音と上空でゴーゴーと風が吹き抜ける音で何度か目が覚めた。しかもかなりの雨脚のようで窓にバチバチと雨粒が叩きつけている。寝ぼけた頭でもこの避難小屋までたどり着いたことは大正解だったと安堵してまどろむが、いくらもしないうちに雨音で目が覚める。障子岩尾根でへばっていた青年はあの後下山したかもしれないが、どこかでテントを張っているかもしれない。この風雨で眠れぬ夜を過ごしているだろう。他人事ではあるがちょっと心配になる。とはいえ山歩きなんて自己責任の世界だ。真冬でもないしこれで命を落とすこともないだろう。いらぬ心配はしないことにしよう。
翌朝は空が白み始めたころ目覚めた。風は収まっているもののまだ小雨が降り続いているようで軒下に雨垂れの音が聞こえる。昨夜聞いたラジオの天気予報では雨とは言わなかったのだが…。やれやれ今日の行動はどうしたものかと思案していると同室の学者先生たちもゴソゴソ起き出してきた。こうなるといつまでも寝袋にもぐったままというわけにはいかない。思い切って体を起こす。
さて、これからの行動だが、着の身着のままなのでさっと寝袋とマットをまるめてザックに押し込めば片づけ完了だが、朝食の段取りがある。まずはガスコンロでお湯を沸かそう。多くの人は起きたらまずは寝床の片づけをしてから次の行動をするのが普通と考えるだろうが、それでは効率が悪い。朝食は乾燥米(アルファ化米)のご飯なのでお湯を入れて15分待てば出来上がりだ。だからお湯をそそいでからの15分を無駄にしたくないのだ。その間に片づけや出発準備、トイレにも行ける。こんな風に山に入るといつも以上に一挙手一投足を考えながら行動する。なら日常もさぞ几帳面な暮らし方をしていると思われるかもしれないが、それが出来ないから家族争議のもとになる。なぜ1人で山に行くと別人のような行動がとれるのか不思議だ。
出発の段取りを済ませてしばらくは空の様子を眺めていたが全く雨が上がる気配がない。ここで何日も晴れるまで酒を飲みながら待つという贅沢をしたいところだが、時間もないし持ち合わせの酒もない。土間に干していた泥が付いたままのまだ生乾きのカッパを羽織って30分遅れの出発だ。先生方が部屋の中で座ったまま呆れた顔で見送ってくれた。
半分眠ったままの体で歩き出した。祖母山の山頂は避難小屋から15分ほどだが、相変わらず雨はしょぼしょぼと降り続きテンションは下がるが体調はまあまあだ。
それにしても山頂までの道も鹿の食害だろうか、かつては頂上に出るまでは灌木の中を縫うように歩いていたが、それがことごとく倒れて草地になっている。複雑な思いで3度目となる祖母山山頂に立った。

鹿のせいだろうか灌木がことごとく倒れて草地になっている

3度目となる祖母山頂=視界もなく感動もない。複雑な思いだ
