コラム・エッセイ
祖母〜傾山縦走記⑳ 《超贅沢品》
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修自分勝手な想像で祖母山九合目小屋は降り続く雨で宿泊者など皆無だと信じ切っていた。貸し切り状態の小屋に着いたらずぶ濡れとなったカッパや荷物を拡げて整理しよう。着替えのシャツもあるにはあるが、明日も終日荒天の中での行動ならどうせずぶ濡れになるだろう。それなら“着干し”という原始的な手法も小屋の中なら不可能ではない。などと頭の中であれこれ思案しながら歩いて来たが、先客がいるとなればそれらの段取りはリセットだ。まずは先客の人数や空きスペースを確認してからだ。
ところで、この避難小屋は地元の自治体(豊後大野市)が登山者のために整備したものなので当然無料だし旅館やホテルのように「満室でお断り」ということはない。ただ、一般には明るいうちに到着するのが山での常識でありマナーなので先客に心情的に優先権があるのは否めず、こんな時間にのこのこやって来た者は多少の気兼ねをしなくてはならない。
実はこの祖母山九合目小屋はつい最近まで管理人がいて宿泊料2000円を徴収していた。過去に来たとき宿泊はしなかったが、この管理人から小屋の維持管理はもちろんのこと周辺の登山道や道標の整備を担い、コースの最新状況をネット上にアップしたり事前に頼んでおけば缶ビールも担ぎ上げてくれることなどの話を聞いていた。奥深い山域ではあるし登山者の安全面はもちろんいろんな意味で心強いものを感じていた。
ただ、要らぬ心配ではあるがこの管理人はどうやって生計を立てているのだろうか?とちょっとだけ疑問に思っていた。祖母山にやって来る登山客はシーズン中はそれなりに多いだろうが、全てが宿泊するわけでもないし、仮に1人1泊2000円を全部ポケットに入れたところで年間どれだけの上がりになるのだろうか。身分は自治体の嘱託職員なのか、流行りの指定管理なのかそれともアルバイトなのかは聞きそびれてしまったが、どんな健脚でも町に出るまで半日以上はかかるし家族で生活できる環境でもなく常人に務まる仕事内容ではない。
無人となり無料の避難小屋となって有難いのが半分、今後厳しい自然環境に立地する貴重な施設の適切な維持管理ができるのだろうかという心配も半分ある。地方は縮小の一途をたどると言われている。トラックが通る道路もないとんでもない山奥に建つ山小屋など建設単価は下界の何倍、いや何十倍ともなるはずだ。ごく一部のしかも他所からの登山者が恩恵を受けるだけの超贅沢品でもあり、身銭を切った自治体の歳入に繰り入れできるほど貢献できるとは到底思えない。もし朽ち落ちたとしてもとても即座の建て替えなど望めないだろう。
土間に張ってあるロープにずぶ濡れのカッパなどを引っかけ、ちょっとは身づくろいをして奥の間のドアを開ける。「こんばんわ〜」一斉に視線が集まる。

祖母山九合目小屋はつい最近まで管理人がいて心強いものを感じていた

管理人が登山道や道標の整備を担っていた
