2025年11月09日(日)

コラム・エッセイ

祖母〜傾山縦走記⑯《悲しい山》

おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修

 最近買った一番高額な衣装が山用のカッパだ。一昨年体形の変化により仕方なく「洋服の〇山」で礼服を新調したが、ワイシャツやネクタイをつけてもこのカッパよりは安い。そのうん万円もするカッパが泥まみれになったのがちょっと悔しい。もちろん洗濯をすれば汚れは落ちるだろうが近年にない汚れ方に心が折れた。背中のザックも雨よけのカバーをつけてはいたが、滑り落ちる際にめくれてやはり泥だらけだ。鏡で全身を眺めることができないので客観的なコメントはできないが、どうしたらそんなに泥だらけになれるのか?と言われそうな派手な姿のはずだ。首にかけているタオルを雑巾代わりにして拭いてはみるが泥を塗り拡げるだけなので諦めた。

 少々いや大いに気分は落ち込んでいるがこの場に立ちすくんでいるわけにはいかない。時計を見るともう15時半だ。日没後の行動を覚悟しているが、この先の宮原(みやばる)という分岐までは地形図を見る限りそれほど大きなアップダウンはなさそうだ。そこから先は過去に2度ばかり歩いているのでおよその見当はつく。それでもあと3時間近くはかかるだろう。雨が降ればカッパの泥も流れ落ちるかもしれないと気を取り直して歩きはじめる。

 相変わらずの雨とガスに包まれているので遠方や上空の様子は全く分からないが、次第に尾根筋の幅は広くなり滑り落ちそうな緊張の急斜面からは解放されたようだ。その分ちょっとは周囲を見回す余裕ができたが、立っている木の様子が異様だ。ちょうど人の背丈ほどの部分まで樹皮がことごとくむかれている。上手に樹皮だけ剥ぎ取って木部はほとんど無傷だ。はじめは雨に濡れて艶っぽく見える木肌にこんな種類の木もあるのかと思っていたのだが、どうやら野生動物による食害のようだ。かろうじて葉を付けて生きている木もあるが、枯れて倒れているものも多い。

 緯度の低い九州の山とはいえ、標高が1,400メートルを超える環境では巨木が育つ条件ではないようで、天然林ではあっても太くても直径がせいぜい20センチくらいだろうか。ほとんどが一升瓶程度だ。それでもかつては豊かな天然林だったと思うが立っているほとんどの木が生き絶え絶えの状態で、枯死し倒れたものがおびただしい。反して馬酔木(あせび)などの食害に無縁の低灌木が群落をつくりつつあるが、裸地化して表土が剝き出しの所もある。

 祖母山系はカモシカや鹿に加えてツキノワ熊も生息しているという豊な自然が残ってはいる。しかし何事もバランスの問題で、それには人間が絡んだからくりがあるのかもしれない。この先の傾山までの縦走路では目を覆いたくなるような悲しい山の現状を度々目にすることになる。そうか、八丁越への下りで飛びついた枯れ木は鹿の食害によるものだったのか…。

立っているほとんどの木が生き絶え絶えの状態で、枯死し倒れたものがおびただしい

馬酔木(あせび)などが群落をつくりつつある

LINEで送る
一覧に戻る
今日の紙面
ピアレックス

遺品整理でお困りではないですか?県内出張見積は無料!不動産売却や空き家じまい(解体)もお気軽にお問い合わせください。

西京銀行

【取扱期間 2025年9月1日~2026年3月31日まで】お預け金額10万円以上。手続き不要!さいきょう定期預金の金利で満期後自動継続。詳細は西京銀行までお気軽にお問い合わせください。

サマンサジャパン

来院者の方へもっと目配り、気配りをしたい。物品の補充や搬送に時間を取られる・・・
サマンサジャパンでは医療従事者の方がより医療に専念できるよう、コンシェルジュ、受付、看護助手、清掃、設備など様々な業務を行っています。

山田石油株式会社

ソロや友達と過ごす「おとなじかん」から、親子三世代で過ごす「かぞくじかん」も楽しめる日帰りレジャー施設「くだまつ健康パーク」。屋内で遊べる施設や岩盤浴、サウナも充実!