2026年06月19日(金)

コラム・エッセイ

祖母~傾山縦走記⑭《無謀な中高年…》

おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修

 大いに体力勝負のアップダウンを繰り返す。下方の様子は濃いガスのため皆目分からないが足元はかなり狭く、両側は絶壁だと思われるスリリングな場所もある。ちょっとした岩登りの要素の箇所もある。もちろん慎重にはなるがスピードを落とすわけにはいかない。

 エネルギーと水分補給のために30分に一回は立ち止まるが、腰を下ろしての大休止ではない。せいぜい数分だ。防水のためにビニール袋に入れた地形図をズボンのポケットから出して現在地の確認をしたり顕著なピークでは高度計の補正もするが数十秒ほど立ち止まるだけだ。何せ日没までには避難小屋に着きたいという少々の焦りもある。もっともしょぼしょぼと降る雨の中でのんびり座り込んで一休みという状況ではない。

 全身濡れ鼠状態だが、概ね奪われる熱と生産する熱がバランスしている。登りこう配では多少汗もかくがこのペースで歩き続ける限りではカッパ無しで何とかなる。逆にいえば10分もじっとしていれば一気に熱を奪われてブルブル震えることになる。雨が降ればカッパを着るというのも間違いではないが、降り方によってはこうして熱のバランスをとるというのも芸の一つだ。ただし、動き続けるだけの体力に自信というか余力があってのことであり、もし力尽きて動けなくなったらその瞬間から体温は急速に奪われてしまう。いくら九州の山とはいえ標高が千数百メートルを越え、弱った体で雨の中を濡れた状態で一夜を過ごすのは危険だ。すぐにテントを立てるなどして雨に当たらない状態をつくり、乾いた衣類に着替えて保温に努めないと、あっという間に低体温に陥る。もし転落や滑落といったアクシデントで体温保持の行動がとれなければ、ケガが原因ではなく体を濡らしたことによる低体温での遭難ということもある。

 雨の中をこんな険しい山道を歩くのはどう考えても安全ではない。その上日没後の行動となれば転滑落など重大な事故のリスクはさらに高くなるのは明白で、誰ひとり擁護などしてくれないだろう。新聞の片隅に小さく「無謀な中高年登山者 夜の縦走路から転落!」などという見出しで恥を晒すことになる。

 視界も感動もないがやけに立派な看板が立つ大障子岩(1,451メートル)に立った。この岩峰だけを目標にする登山者もいるというが、晴れていれば今夜の寝場所の祖母山の避難小屋や最終目標の傾山に至る山なみを遠望できるのだろうがそれもかなわず感動も何もない。それよりも先に歩みを進めたいが雨脚も強くなり、しかたなくとうとうカッパをザックから出す。

 大障子岩から先も険しいルートだ。八丁越とよばれる鞍部までは濡れた岩稜の急降下だ。クライムダウン(岩に向き合い両手で支えながら降りる)したり「鹿の背」と呼ばれる細い岩稜の通過もある。絶対に落ちてはいけない所だ。

視界も感動もないがやけに立派な看板が立つ大障子岩(1,451メートル)に立った

八丁越までは濡れた岩稜の急降下が続

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