コラム・エッセイ
「ドクター〇〇…」
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修それにしても暑い夏だった。年を追うごとに暑さが厳しくなり、ますます身にこたえるようになった気がする。もちろん老化が進んで余計に暑さがこたえるようになったのだろうが、連日の熱中症アラートは大袈裟でも他人事でもないことを実感する。先日も軒先の寒暖計が日陰なのに40℃を指していた。土間の照り返しもあったかもしれないし、そもそも目盛りが正確じゃあないかもしれないが、真夏の午後の炎天下では本気で肉体労働ができる環境ではない。
昔々、まだ自他とも認める少年とか青年だった頃に世紀末映画が流行っていた。環境破壊や人口爆発、謎の感染症、人工知能の暴走、人間のエゴで人類が滅亡の危機に瀕するというストーリーだ。大概はハッピーエンドでなく絶望的な最後が待っていた。かつて映画はインターネットなど無い時代の娯楽の王様と同時に世情を反映した問題提起の場でもあった。若者はスクリーンの世界に没頭して感化されるのがフツーだった。世間知らずで純真無垢?だったころに見たそれらは、おっつけ人類は滅亡してしまうのではないかと複雑な気持ちで映画館を後にした記憶がある。
高温化した地球でやがて人類は淘汰され、熱暑に耐性のある限られた人と宇宙服のような冷房装置のついた服を着ることのできる大金持ちしか生き残れない世がすぐそこに迫っている…なんて、この猛暑酷暑の中で喘ぎながら昔のことを思い出した。
とはいえ、前者のような耐性も根性も無い。後者のような身分とは縁遠く、一日中エアコンの効いた部屋で過ごすわけにもいかない。一般の労働者は朝8時から夕方5時まで仕事をするが、一次産業従事者としてはこの炎天下で体が持たない。そこで早朝から勢いで昼過ぎまでチェンソーを持って山仕事で汗を流し、陽が陰るまで数時間を家でじっとして、今度は日が暮れて見えなくなるまで草刈り作業をする。いわゆる自家版のサマータームを導入した。
遊びならともかく、日の出前から外仕事に出かけるなど若い時なら絶対に考えられないことだが、嫌でも暗いうちに目が覚める歳となり、意外にも外仕事がはかどるのが心地よい。それにしてもそんなに辛抱人じゃないはずなのにちょっとおかしいぞ…。
今度は映画ではなくテレビの話になるが「ドクターX」という番組で主人公の外科医大門未知子が「私、失敗しないので!」と自信満々で語る場面はお決まりで、履歴書の趣味手術。特技手術というのも痛快だ。
今、趣味は?と聞かれたら「草刈り」特技は?と聞かれても「草刈り」と答える。荒れた農地の再生を牛達と始めて10年を過ぎた。年々。いや日々きれいになる場景はなかなか快感だ。草刈り機の刃は毎度石にぶつけて失敗は多いが、エンジンを吹かしながら牛の傍らで「ドクター○○」気取りでいる。
7月末にとうとう40℃を超えた=世紀末映画を思い出す
牛達と荒れた農地の再生を始めて10年を過ぎた=舌刈効果はなかなかだ
年々いや日々きれいになる場景を見るのが快感だ
